政府の「農林水産業・地域の活力創造本部」が、獣害対策の一環として、野生鳥獣の肉(ジビエ)の利用を拡大し、2019年度にジビエの消費量を倍増させる目標を立てたそうだ。
それによると、全国に12のモデル地区を指定し、ハンター養成に加えてハンターに仕留めた獲物をジビエとして商品化する処理方法を研修するほか、捕獲後すぐに処理できる移動解体車や、年間1000頭以上を処理できる処理加工施設を整備する。
さらに野生鳥獣を適切な衛生管理の元に処理する施設を認証する制度や、捕獲日や捕獲者などの情報を提供する情報管理システムの開発支援……だそうだ。
う~ん。ジビエを普及させることが獣害対策につながるかどうかはかなり疑問なのだが、その前にこの手の策から浮かび上がるジビエ利用の現状を思い出してしまった。
これまでのジビエと言えば、(輸入品は別として)猟師が獲ってきた肉の“おすそ分け”として存在した。見知ったハンターが獲った獲物を分けた肉である。その際に金銭のやり取りがあるかないか。あっても、あくまで個人間のお礼レベルだ。
だから、仮に食中毒が起きても、問題化しにくい。またE型肝炎への感染リスクがあると思いつつも、シカの生肉の刺身をオイシイ
と食べている。
では、彼らがどのように獲物を処理しているか。私も目撃したことがあるのだが、多くのハンターは、仕留めた獲物(シカやイノシシ)をその場、つまり野外で解体する。血抜きして毛皮を剥ぎ、渓流などに獲物を浸して肉温を下げ、また内蔵を捨てる。オイシイ肉部分だけを持って
帰るわけだ。
しかし、それが何を意味しているのか。何よりも衛生的でない。地べただったり、段ボールを敷く程度。川の水も、どの程度衛生的か怪しい。
これは、はっきり言って食品衛生法の違反である。だから販売してはいけない。しかし、実際には出回っている。これは違法ジビエだ。
さらに野外に血を流したり川で肉を洗うのだから水を汚すことにもなる。解体後の死体の処理も、しっかり穴を掘って埋めるとは思えない。川岸に放置したり、ブッシュに投げ込んで終わり。それが環境破壊になるどころか、クマの餌になったりもする。
上記の施策は、違法ジビエを排除することを目指しているのかもしれない。というと良いことのように思えるが、完全に実施すると日本で出回っているジビエの多くが消えるだろう。
なぜならハンターの多くは、ジビエ利用(野生肉のおすそ分け)を諦めるから。ジビエを遵法化しようとすると、すごい手間とコストがかかるが、それを嫌うのである。
現在でも、ジビエに参入するハンターは、ごくわずか。少しでも駆除個体の有効活用したいと思うからだが、始めたら「全然儲からない」どころか「赤字で首が回らない」話が出てくる。やってられないだろう。仕留めて1時間以内に解体処理場に運び込めと言われると、農地の側で仕留めるのならともかく、山の中ならいかに大変か。
そんな苦労しないでも、有害駆除報償金を受け取っておけばよい。そして、自分の分の肉だけを(違法に?)解体して持ち帰るのではないか。それを有償おすそ分けしたら、犯罪になってしまうから。
ジビエ倍増作戦が、逆にジビエ消費量を激減させるかもしれない。
シカ個体の3分の2が、ゴミとなる。
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