琉球に、蔡温(1682~1762)という政治家がいた。
彼の林政学をちょっとかじっている。
日本の林業、そして林学と聞けば、たいてい想像するのは日本本土である。沖縄、それも琉球王国時代なんて、あまりピンと来ないかもしれない。そもそも人工林もさしてなく、島国ゆえ規模も小さい……と思ってしまう。が、実はすごい。
昭和の研究書には、
「蔡温林学はドイツ林学も未だ及ばざるところ」とまで評されているのだ。
しかも蔡温が林学書を記したのは18世紀初頭。ドイツ林学だって、まだ確立したとは言えない時代である。
何よりすごいのは、蔡温に先立つ研究者が見当たらないのだ。ということは、自ら一代で築き上げた理論ということになる。
それも、決して学者ではなく政治家(琉球王国の宰相)なので、政治、経済、外交、公共事業……と多忙を極めている。その中でいかに生みだしのか。
ちなみに蔡温の林学に関する著書をまとめて「林政八書』と呼ぶ。
経歴を見ると、ある一時期、沖縄北部の国頭村の森林地帯にしばらく滞在している。どうやらその時期に調査研究をしたのだろう。おそらく地元の人々から森と木の扱い方を聞き出したに違いない。それを整理して法則を見つけ出したのではないか。
彼の林学書の中でも有名なのは、『杣山法式帳』だろう。
造林地の見立てと取扱について規定しているが、林相の見分け方を記している。遠目から森を眺めて、幼齢林、壮齢林、成熟林……と見分ける方法である。
沖縄と本土は植生もちがうはずだが、見ていて、うんうん、とうなずけるのである。
もちろん、ほかにも鋭い見立てがてんこ盛り。
まあ、これから詳しく考察していこうと思うが、琉球が島国で小さな世界ゆえに全体像をつかむのに適していたのかもしれない。世界をとにかく広く見て回り、情報の海に溺れてアップアップしなくても、見る目と考える精神があれば神髄を読み取れるのだ、と思うとなぜだか嬉しくなる。
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