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2017/08/21

宮域林、空白の700年

先日もお知らせしたが、今度伊勢神宮で講演を行う。そこで、式年遷宮の木材や宮域林について、にわか勉強している。
現在の遷宮に使われる木材はほとんど木曽から得ているが、前回ようやく宮域林からも使うようになったことはご存じだろう。これが700年ぶりと言われる。
 
古代は、神宮周辺の宮域林(神路山)や志摩の伊雑神戸(いざわかんべ)から用材を得ていたのだが、資源が尽きたため各地に移した。戦乱など治安の悪化で搬出できなくなったこともあるようだ。
 
では約700年間、宮域林はどうなっていたのか。その点がちょっと気になっていた。
 
まず驚くのが、鎌倉時代初期の東大寺の大仏殿の再建に使いたい、と重源上人に霊告があったという記録だ。仏教寺院の造営に神宮の木を使っている可能性があったこと。神仏混交が驚くほど進んでいたのである。
実際に伐りだしたという記録はないが、重源や東大寺の僧60人が伊勢参拝した記録はある。お礼参りだろうか。 
 
一方で平安時代から伊勢や志摩では塩の生産が盛んだったらしい。かなりの規模の製塩業が営まれていたのだが、その燃料に近隣の山の木を使っていた。宮域林も含まれる可能性は高いのではないか。
 ゛
また江戸時代には宮域林から村落の建築資材や薪炭を得ていたという。何度も禁令が出ているのは、幾度も破って採取されていたのだろう。
とくにお伊勢参りが流行ると、全国から押し寄せる参拝客の接待に莫大な燃料が必要となる。それらは全部薪炭だ。山が荒れるはずである……。
 
大正時代に、洪水対策も兼ねて、森林経営計画が作られた。これによって、ようやく遷宮用材の生産を再びできるようにしようという気運が高まったようだ。
 
3
 
面白い。最初は豊富な木材資源があった山も、ついに伐り尽くして薪炭利用に切り替わり、近代に入って復活が図られるというのは、日本全体の森林史に通じるものを感じる。
 
そんな話も織りまぜようかなあ。
9月2日(土)13時~14時30分
伊勢神宮せんぐう館催事室(外宮)
演題  森林は街がつくった
講師  田中淳夫氏(森林ジャーナリスト)
内容  テーマ「森林を求め、林業を生み出したのは街の人である」
 
※ウェブサイトか電話・FAXでお申し込みください。 当日受付も可能
※聴講無料(別途入館料が必要・大人300円)
 
☎ 0596-22-6263
  

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