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2018/03/12

『吉野杉』に見る吉野林業の栄華

吉野杉』という本を手に入れた。

著者は芳野孝夫。刊行元は文芸社だから、多分自費出版だろう。あるいは協力出版のいう名の編集費を支出したものだろう。
 
内容は小説である。恋愛小説だ。舞台は吉野地方で、銘木店の一人息子と恋人の話。正直、小説としてはたいして読みどころはない。キュンキュンすることもなければ胸打つシーンもない。ただ背景となる吉野林業の描き方が面白いのである。
 
Img001
 
時代は、「昭和の高度経済成長期を迎え、吉野地方がもっとも輝いていた頃」とされている。昭和40~50年代だろうか。吉野地方としか書かれないが、おそらく吉野町から下市町周辺のことだろう。
ちなみに主人公は銘木店の跡取り息子の専務なのだが、この吉野の銘木とは一般に想像しがちな長伐期で育てた大径木・通直・無節……といった木材ではなく、磨き丸太のことである。
吉野は、実は京都の北山杉で知られる磨き丸太の大生産地であり、量的には北山を凌駕していた。樹齢15~25年程度の細い丸太で床の間の床柱にする建材である。一般の磨き丸太に加えて人工絞丸太や錆丸太、出節、面皮柱、桁丸太、垂木……などを生産していた。一部には天絞(天然絞丸太)もあった。
 
そんな世界を小説の舞台にしているのである。そこには丸太の育て方や皮のむき方・磨き方、人工の絞りの作り方、錆(カビ)のつけ方……などが描かれている。むしろ恋愛シーンよりも、生き生きとしている。
さらに銘木市場の様子も緻密な描写だ。競りの進め方を裏の様子から描かれる。出展者も競りに参加できるそうで、自分で自分の丸太を競って値段をつり上げるような芸当までする。結構ヤバイ(~_~;)。しかし天絞は上手く行けば1本で50万円になるそうである。物価を考えれば今なら100万円以上だろう。
 
ああ、この時代はこんな状況が展開されていたんだなあ……という勉強になる。
より勉強になるのは、こんなセリフである。
 
Photo  
 
床柱は日本人の心の部屋の建築用材や
近頃都会では、洋風の家に人気があるそうやが、ほんに困ったもんや
 
実は、これによく似た言葉を某シンポジウムで聞いたことがある。
最近は洋風の家が主流になって床柱などが売れない、もっと洋風に適した部材を開発しなくてはいけない……という話題の中で、会場の林業家の意見として
日本の木は和風の家に適しているんだ。洋風に合わせるんじゃなくて、和風の家を建てるような運動をしていかないかん」。
 
ああ、このメンタリティなんだな……と納得というか落胆というかしてしまい、そんな林業に先はないわ、と思った記憶がある。 むしろ「(床柱を)使わなんでも、いくらでも家は建つ」という言葉の方をかみしめるべきだ。
 
念のために説明しておくが、床の間のある家が広がったのは明治になってからである。もともと床の間のような数寄屋づくりは武家しかつくってはいけなかった。江戸時代後期に豪商などお金持には許されるようになるが、一般的な民家にはなかった。そして本当に庶民の家(長屋や団地まで)床の間がブームになるのは、戦後の一時期にすぎない。
そもそも吉野で床柱を生産しだした歴史も古くない。また床柱も、江戸時代は節のある間伐材を利用していたのに、明治以降は専門に育てていくようになり節をなくした。
そして90年以降は、逆に床の間が住宅から消えていく。さらに畳の間も減ってしまった。
 
ともあれ、この本の著者は、多分登場人物と同じような経験を積んだ人なのだろう。
ラストは、大雪で精根傾けて育てた14万本の床柱用のスギの山が壊滅するシーンが描かれる。その雪起こしシーンもまた読みごたえがある。
いっそ恋愛模様抜きで、当時の吉野林業の裏の世界を描いた方が読ませたのではないだろうか。
 

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コメント

>日本の木は和風の家に適しているんだ。洋風に合わせるんじゃなくて、和風の家を建てるような運動をしていかないかん

 絶句しますね・・・(^^;)日本家屋を買え!とか押し付けることが
正しいと思っている所がすでにやばい・・・

 きっとこんな思想の方々が、現政権の支持者なんでしょうね。
(^^;)

現「林業」の支持者です……(;´д`)。

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