今、『日本が売られる』(堤未果著 幻冬舎新書)という本が売れているらしい。
私も宣伝を見て、ちょっと書店で手にとってみたが、「読むに値しない本」と認定してスルーした。が、某氏より「この本の内容、どう思います?」と質問された。内容に「森が売られる」の項目があるからだ。そこで改めて手にとった。今度も立ち読みだけど(笑)。
目次は、こんな感じ。
第1章 日本人の資産が売られる
1 水が売られる(水道民営化)
2 土がか売られる(汚染土の再利用)
3 タネが売られる(種子法廃止)
4 ミツバチの命が売られる(農薬規制緩和)
5 食の選択肢が売られる(遺伝子組み換え食品表示消滅)
6 牛乳が売られる(生乳流通自由化)
7 農地が売られる(農地法改正)
8 森が売られる(森林経営管理法)
9 海が売られる(漁協法改正)
10 築地が売られる(卸売市場解体)
1章だけで、こんなに並んでいるが、たしかに「森が売られる」の項目があり、そこで森林経営管理法を取り上げている。この法律を「売る」という感覚で記すのはどうかと思うが、まあ、それはよしとしよう。
私も森林経営管理法について、その危険性についてアチコチに書いてきた。同じように批判しているのか……といえばそうではない。おそらく著者は日本の林業事情についてほとんど理解していない。林業現場に足を運ぶことなく上っ面をなでたような内容だ。この法律は民間企業が森林を買い取ると解釈しているようだし、所有者不同意の森林を伐採する意味もヘンな解釈。ちゃんと法律の内容を理解しているように思えない。
せっかくだからAmazonの本の説明文も引用する。
水と安全はタダ同然、医療と介護は世界トップ。そんな日本に今、とんでもない魔の手が伸びているのを知っているだろうか?法律が次々と変えられ、米国や中国、EUなどのハゲタカどもが、我々の資産を買い漁っている。水や米、海や森や農地、国民皆保険に公教育に食の安全に個人情報など、日本が誇る貴重な資産に値札がつけられ、叩き売りされているのだ。マスコミが報道しない衝撃の舞台裏と反撃の戦略を、気鋭の国際ジャーナリストが、緻密な現場取材と膨大な資料をもとに暴き出す!
どこの現場を取材してんねん! とツッコミドコロ満載だ。そもそも取材したら、通常は関係者のコメントや経験談、現場の描写などが入るものだが、そうしたものは一切抜き。絶対に現場取材していないと断定しておこう。そもそも取材先はおろか、資料や元データをどこにも記していないのも不信をあおる。
インターネットの情報を拾い集めたような書きっぷりだ。とくに正否両方のある情報の吟味もしていない。都合のいい批判論調だけを集めたのだろう。
森林以外で私が多少ともかじっている分野もいくつか立ち読みしたが、どれもこれも、なあ。。。(´_`)。
たとえばミツバチを殺すとされる農薬ネオニコチノイドに関しても、さまざまな研究結果が飛び交っている状態で、その危険性は確実に認定されたわけではない。相当、慎重に農薬化学を読み解かねばならないのに、エキセントリックな情報だけを並べている。
農地法や漁協法の改正に関しても、なんて薄っぺらなんだ。現状に問題があるから改正されようとしている(その改正のベクトルが正しいかどうかが論点)わけだが、改正そのものを陰謀かのように記す。
一事が万事なので、全部読まなくてもいいだろう。タイトルだけ見て、それをググれば、同じ内容がいっぱいネット上に出てくるよ。
そして、全体を通して感じるのは、「強欲な欧米諸国の資本主義が日本に襲いかかる」という論調だ。いわば「日本スゴイ」の裏返しのネトウヨ論調。いつぞやの「日本の森が外資に奪われる」とあおった本と同じ類だろう。「日本は美しく、優しい人々の国だったのに……」と昔を持ち上げ、現在の(外からの)危機を訴えるのだ。
こうした本を書けば売れるんだな。と寂しくなったのでした。
あ、私も書けばいいんだ!(゚д゚) 良心を捨てて。
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