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2019/01/27

書評『保持林業』

『保持林業』(柿澤宏昭+山浦悠一+栗山浩一[編] 2700円+税 築地書館)を読んだ。

※サイドバーに掲載してリンクを張っている。
 
分厚くて高い本である。多人数の編著は論点がばらついて読みにくく、あんまり気が進まなかったが、文献として必要だろうと。
 
Photo
 
読み終えて感じたのは、新たな林業界の方向性を紹介していて、興味深かった。編著も読むもんだ。 
 
最初に「保持林業」とは何かと説明しておくと、retention foresty の訳語として考えられたもの。
基本的に皆伐施業が前提である。だが、より生物資源の一定の保全と生態系の復活がしやすくなるようにすべての樹木を伐採せず、立ち枯れ木や生立木を残す施業法である。木材生産をしながら生物多様性を保全する、しやすくなるための施業と考えたら良いだろうか。
 
これが択伐などと違うのは、択伐は木材とする木を選んで抜き伐りするのに対して、こちらは生物多様性を残せるような木を選ぶこと。正反対の発想だ。
完全な森林保全にはならないが、その木があることで回復が早くなるとか、動植物の絶滅を防げるなどを意図する。
 
また傘伐など保残伐施業とも違う。そのため従来の言葉を使わずに新たに考えたのが「保持」だというのだが……はっきり言って語感がよろしくない。また保持という一般用語のイメージもあって、イマイチ林業や森林生態に関した言葉としてはこなれていない。この点は、私的には不満である。もうちょっと言葉が喚起する人々の感性にはこだわってほしかった。
 
ともあれ、世界的に注目されていて、今や1億5000万ヘクタールの森林で実施されているという。なお森林認証制度とも関わっている。これほど広がっているのに、日本にはほとんどこれまで紹介されなかったのはなぜだろうか。保残伐施業と混同していたのか。
 
では、どれぐらい残すのかと言えば、5~20%と幅があるようだ。皆伐と言いながら2割残せるのなら悪くはない。非皆伐施業と較べると、伐りすぎだが……。(もっとも、日本なら2割も残したら皆伐じゃないからと補助金対象から外れるだろう。)
ただ皆伐の場合と較べて木材生産量が落ちることや、選木眼も重要となるだろう。
 
詳しい世界的な状況や、技術的な面については本書を読んでほしいが、日本でも研究的に試みている森はあるし、民有林で挑戦する林業家もいるらしい。
 
とにかく施業法の選択肢を増やすという点からは注目に値する。何がなんでも全国画一的に行わせようとする林野庁の“悪魔の施業計画”から外れるためにも、選択の一つに加えられたら。
皆伐から完全保護までさまざまな森林に対する人の関わり方があって、所有者・管理者が将来まで目を配りつつ考え、自分で選ぶというスタンスを持たないと救われないと思うのである。
 
より貪欲に世界の潮流をつかみ、咀嚼するためにも、本書は価値があるのではなかろうか。
 
目次等を引用しておく。
成熟期をむかえる日本の人工林管理の新指標
オリンピックを契機として森林認証が注目されるなか、

そdiv>環境に配慮した伐採をどう進めるかがクローズアップされている。

だが、生物多様性の保全に配慮した施業のガイドラインは存在しない。
本書は、欧米で実践され普及している、
生物多様性の維持に配慮し、林業が経済的に成り立つ「保持林業」を
第一線の研究者16名により日本で初めて紹介。
保持林業では、伐採跡地の生物多様性の回復・保全のために、
何を伐採するかではなく、何を残すかに注目する。
北海道道有林で行なっている大規模実験、世界での先進事例、
施業と森林生態の考え方、必要な技術などを科学的知見にもとづき解説。
生産林でありながら、美しく、生き物のにぎわいのある森林管理の方向性を示す。
はじめに
第1章  保持林業と日本の森林・林業………………… …山浦悠一・岡 裕泰
第2章  アメリカ合衆国における保持林業の勃興…………中村太士
第3章  カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州の事例
             ── 保持林業が渓流生態系に及ぼす影響……五味高志
第4章  保持林業の世界的な普及とその効果
              ── 既往研究の統合から見えてきたもの……森  章
第5章  北海道の人工林での保持林業の実証実験………尾崎研一・山浦悠一・明石信廣
第6章  保残木が植栽木・更新へ与える影響…… ………吉田俊也
第7章  保持林業と複層林施業……………………………伊藤 哲
第8章  諸外国の生物多様性を保全するための制度・政策…柿澤宏昭
第9章  日本における生物多様性配慮型森林施業導入の課題と可能性…柿澤宏昭
第10章  生物多様性の保全を進める新たな手法…………栗山浩一・庄子 康
おわりに
 
 
 

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