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2019/01/10

楽器とイヤホンの違い

オークヴィレッジの人と話す機会があったのだが、そこで紹介された商品がこれ。

 
Img002
 
これは「オークヴィレッジ通信№427号に掲載された商品の紹介記事だが、木製イヤホンだ。
JVCケンウッドと共同開発したというのだが、驚いたのは価格。なんと20万円!
 
この小さな、耳の穴に入ってしまいそうな……いや、入るようにつくられたイヤホンである。大きさとしては1立方センチメートル×2ぐらい?これを1立方メートル材価にしたらいくらになるだろう……と考えて阿呆らしくなった(笑)。
 
使われたのはイタヤカエデで、漆塗り仕上げである。それも本漆の手塗り。ほかに和紙や絹も使っている。何も材料を高級にしようということではなく、もっともよい音質を求めた結果だそうだ。化学塗料より漆の方がよい、それも添加物を入れない方が音が伝わるとか。しかし、木の部分の加工は0,1ミリ単位。木工の立場からすれば、常識外の精度である。
 
もちろんこの価格は、木材や漆、そのほか金属部品の価格というよりは職人仕事と音質を調整する検品などの手間が価格の積み上げになっているのだろう。
 
これが売れているのだ。目標は2年で2000個の予定が半年で2000を売り切ってしまう勢いだという。オーディオファンの底力というか財力を感じてしまった(笑)。
 
 
木材のもっとも高級な使い道は楽器だという。最高級の楽器に使われる木材は最高級と言われる。楽器に採用されたと聞けば、その木材の価値も上がるのだ。
 
奈良県が、吉野杉でバイオリンをつくったことは以前にも紹介した。誰もが無理、という中で試作してみたら、予想外によい音が出たという。そこで現在はヴィオラなどもつくって弦楽カルテットにしようとしているのだが……。
 
2  
 
たしかにバイオリンにも使える吉野杉は、イメージとして価値を上げた。しかし、それで吉野杉バイオリンが発売されて、どんどん作りどんどん売れて山元にも還元される……という話にはならない。
いくら音がよくても、吉野杉バイオリンは一般には売れない。音楽家もまず使わない。際物扱いになってしまう。吉野杉イメージ戦略には成功したが、それが林業振興にはつながらないのだ。
 
そこにイヤホンというのが虚を衝いた(笑)。
なるほど~。楽器は演奏家のものだが、イヤホンはその音楽を聴く人の求めるグッズだ。当然、パイが全然違う。しかもオーディオに凝って音にうるさい人は概して金に糸目をつけない。市場が大きいのだ。
 
 
ならば奈良県にご提案。吉野杉のバイオリンやヴィオラはもういい。それが可能ということを示しただけで、十分に研究成果は出せた。おめでとう。 
これからは、現実に商品として世に出せるものを試作しよう。そして実際のメーカーに持ち込んで商品化してもらおう。購買層の広い聴衆向けオーディオ機器を狙うべきだ。
 
それは何か? イヤホンではないよ。これは職人芸すぎる(^^;)。オークヴィレッジでなければつくれないだろう。たとえば木製スピーカーなどはどうだろう。ほかにアンプ。それらを入れるラック。音響板としての壁材。みんな音に関係するから、こだわりがあるはず。なんなら吉野和紙も使ったらよい。
 
吉野杉の壁板に包まれた部屋で、オーディオ機器を吉野杉ラックに入れて、最高級吉野杉スピーカーで好きな音楽を聴く……売れないかなあ。

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木製品・木造建築」カテゴリの記事

コメント

スピーカーというと、筐体には通常ある程度重い木を使用するので、杉は適さないのではないかな?と思います。
どこかでスピーカーのコーンに木を使用していた気がします。
こちらであれば、杉も使用可能ですね。

近所に個人でスピーカーを作っている方がいまして、その方は米杉等軽い木も好んで筐体に使用しています。
他にそんな人がいるのか分かりませんが、吉野杉もそういう方向の製作者なら生かせるかもしれません。

なるほど。吉野杉にこだわらず吉野産の広葉樹を使うという手もあるかと思います。
しかしバイオリンでもスギは向かないと言われてていましたからね。つくってみたら意外といい! とならないかな。ちなみに吉野杉ならなんでも、というわけではなく、200年ぐらい寝かした吉野杉材を使っていましたが。

ヴァイオリンの表板は通常トウヒですので、吉野杉でもなんとかなりそうです。
裏板とネックはカエデ、指板は黒檀なので、吉野杉では難しそうです。ケボニー化すればいけるかもしれませんが(笑)

広葉樹材ですか。やはりケボニー化しましょう(笑)。実際、ケボニー化木材の引き合いには楽器メーカーが多いそうです。
 
スピーカーは難しいのなら、壁材はどうですかね。こちらはスギ材も似合いそう。奈良県文化会館ホールは吉野杉の壁材を張っています。これをオーディオルーム用にキット化して売り出せないか。
こんな記事も書きました。ここにホールの写真があります。
http://ikoma.cocolog-nifty.com/moritoinaka/2017/03/post-ddfc.html

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