『誰も農業を知らない』(有坪民雄著 原書房)を読んだ。
先に言っておくが、私は農業本もわりと読むのだよ。さらに漁業本も。林業ばかりを追いかけてはバカになる。ついでに経済学だって社会学だって脳科学だって読む。
さて、本書は農業本としても出色の出来だろう。私が密かに?思っていたことをズバリ指摘している。それも裏取りされているから、私も安心してこれから引用できる。
たとえば「農薬は安全」であり、「遺伝子組み換えの何が悪い」であり、「無農薬がもっとも危険」であり、「邪悪なクレーマー」であり、大規模化は低コストではなく、むしろリスキーであることも……。私は農薬をやたら危険視する人を「真性バカ」か「勉強しないバカ」か「カルト信者」だと思ってきた。現状を知れば、生態系を壊す危険性はあるが、人間の健康への影響を心配する次元ではない。少しは科学を学べよ。自分の頭で考えろよ。
ちなみに著者は、元経営コンサルタントで現農家(米作と畜産)。実は私は、随分前に会ったことがあるというか、取材したことがある。わりと意気投合した記憶がある(^_^) 。本書はビジネス系ネット記事で連載したものなので、若干まとまりに欠きバランスの悪い面もあるが、全体は読みやすい。
なお、農業を「誰も知らない」理由は、あまりに多様だからだ。作物も地域も気候も違えば、立場も多様。全体像を把握しているのは政府でも学者でも農家でもない。誰もいない……ということを指している。
もちろん私とは意見の相違もあるが、ここで論じられている点を林業に置き換えると、結構見えにくかったものが見えてくる。
とりあえず細かな目次を掲載しておくので、「農業」を「林業」に置き換えてみたらよい。
◆目次
◎第1章 第二次農業機械革命の時代
IoTは革命になりうる
もうひとつの革命――遺伝子組み換え・ゲノム編集
農業のイノベーションの歴史
いま、農薬は安全である
農業IoTは地域振興と矛盾する
◎第2章 無力な農業論が目を曇らせる
無知な人ほど言いたがる「農業にビジネス感覚を」
「農業にはマーケティングが欠けている」のか?
大規模農業のアキレス腱
夜逃げする無農薬農家
六次産業化は絵に描いた餅の典型
ハイテク農業の大失敗を直視せよ
日本農業の問題点は戦前から指摘されてきた
なぜ農家は儲からないのにやめないのか
現実の議論をしよう――コメ輸入をシミュレーションする
◎第3章 農家も知らない農業の現実
誰も農業を知らない
農業知らずの農業語り
実は農家が変化するスピードは速い
農林水産省は本当に無能か
ピントがずれている農協改革案
農協解体は得か損か
◎第4章 農業敵視の構造を知る
「農家は甘えている」
農業が儲かっていた時代
「明るい農村」の時代
農家出身のサラリーマンがいなくなる意味
邪悪なクレーマー
明るい材料
◎第5章 新しい血――新規就農・企業参入・移民
脱サラ就農はラーメン店をやるより何倍も有利
誰をバスに乗せるのか――新規就農者に望むこと
農薬を否定する人は農業の適性がない
企業が農業参入で成功するためには
農業は外国からの移民を認めるべきか
◎第6章 21世紀の農業プラン
遺伝子組み換え作物の栽培を実現せよ
兼業農家を育てよ
中央官庁移転は農業道県に
海外市場は開拓可能
辺境過疎地は選別せざるをえない
農協の経済部門を半アマゾン化せよ
地元から優秀な農業起業家を育てよ
「農業経済学・経営学」を農学部から追い出せ
食育を推進し、学校給食予算を増額せよ
農家よ、戦え!
最後の「農家よ、戦え!」の冒頭部分を、林業に置き換えてみる。
「林家は勉強と戦闘力が足りません。ここでいう勉強とは林学や樹木栽培法のことではありません。人文科学、社会科学、自然科学をもっと勉強しなければならないということを言いたいのです。そして得た知識を使って、林業の未来をつぶそうとする者を論破し、孤立に追い込む能力を持たねばなりません。」
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