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2019/06/17

除草剤のどこが悪い

このところ、林業で除草剤を使うことの是非が話題になっている。是非というか、批判・反対がほとんどだが……。

きっかけは、林業ボブマーリーさんのブログで「宮崎からオーガニックがなくなる?農薬林業と宮崎の未来」と訴えたことだろう。ようするに宮崎県で、下刈り作業を簡易化するために除草剤を使う(2020年より)動きが現れたことに反対を唱えたもの。

今のところ、除草剤は危険だからダメだ、というのと、下刈りのきつさを考えたら仕方ないという意見がある。下刈りが林業従事者を減らしているという声もある。

実は、私は先月ボブマーリーさんにお会いしていて、この話題でも話している。ただ、私はとくに反対に同意しなかった。だって、世界中の林業現場で除草剤は使われているし、日本でも使っているところはそこそこあるから。そして、私は、これらの薬品をさして危険と思っていない。我が家でもたまに庭で使う。タナカ山林でも使おうかと思ったこともある。

 

そもそも大前提をごっちゃにしているのが気になる。

まず肝心なのは、除草剤と農薬は違うこと。さらに殺虫剤と殺菌剤も違う。ここで、農薬とはなんぞや、除草剤とはなんぞやと解説するつもりはないが、化学薬品をすべて拒否することはできない。人体を含めて、すべての地球上の物質は化学物質でもある。
それに草を枯らす、虫を殺すから人体にも悪影響と短絡するのもよくない。まったく生体の機能が違っているのだから、<虫が死ぬ=人体にも危ない>連想は通用しない。(逆に言えば、虫にはまったく無害で、草の栄養になる成分が、人体に悪影響を与えるものだってある。)
また動植物の体内では、天然性農薬様物質もつくられている。虫にかじられた葉っぱは農薬様物質で虫を追い払おうとするのだ。それらは合成農薬と組成はたいして変わらない。もちろん天然物だから安心、なんてことはない。

いまだに農薬というと頭から拒否反応を示す人が多すぎてげんなりするのだが、危険な農薬があった時代は40年ぐらい前の話だ。レイチェル・カーソンの時代。その後は超速の進歩を遂げているのだ。それに最初は、残留農薬の危険性が問題だったが、その後散布者の被爆が課題となった。今も残るのは環境汚染の心配ぐらいだろう。

今や残留性の危険はほとんど払拭されている。この手の薬には一定期間で分解される構造を持たせている。つまり野外に散布しても、数カ月後、早ければ数週間でほとんど無害化する。ま、これは農業現場の話だが、林業ならもっと少量になるだろう。そして10センチくらいの厚さの土壌があれば吸着されるから、思っている以上に地下水には浸透しにくい。これは福島の森林に降り注いだ放射性物質と同じ。

散布時の被爆は、いかに本人が気をつけるかも重要だが、そもそも毒性の選択性が極めて高くなって、対象の害虫や雑草以外に利かないものが増えた。
最後の環境への影響は私も危惧するところだが、これも誤解とフェイクニュースが蔓延している。ミツバチが大量死した原因も、まだ解明されていない。すぐネオニコチノイドのせいにするが、異論も多いのである。そのほかの問題でも明確な生態系破壊の証拠は出揃ったとは言えない。ただ私は、予防原則としての危険性を感じるだけである。

それでも食品はイヤだというのは感情論としてはわかる。しかし、木材は食べないでしょ。農地よりはるかに薄く撒かれた除草剤は、地下水まで行き着くのは極めてわずかだ。そして下流に流れるまで数カ月~数年かかる。その間に分解されるだろう。

もちろん、だから農薬・除草剤はいくら使ってもよいとは言わない。むしろ地域ごとに適切な薬剤を選んで、成分量を減らすかが課題だ(成分量というのは、たいていの農薬が散布しやすくするため無害物質で増量しているからだ。本当の有効成分は全体の数%)。それはコストにも響く。

ようは、風邪を引いた時に風邪薬を飲むのも拒否するのか、ということである。もちろん風邪なのに下剤を飲んでも治らないし、市販の風邪薬であろうと1回に50錠を飲んだら危険だろう。しかし1回3錠1日3回……なんて基準を守れば、風邪の諸症状を抑えてくれる(はず)。

だから、農薬・除草剤を撒くことが危険なのではなくて、どれだけ・どこに・いつ撒くのかを研究しなければならない。今回の宮崎県も、そのための実験を行うというものだった。すぐに散布を始めるというわけではないようだ。

エビデンスを持って下刈りに有効なのか、どの雑草にはどんな薬剤を使うのか、その量は……厳密に研究して検証しているのだろうか。また下刈りをせずに苗を育てる方法の研究だってした方がよい。昔は放置が多かったはず。今だって草を繁らせた方がシカに食われないかもしれない。あるいはツリーシェルターを雑草対策にかぶせるのも可能性はあるんじゃないか。
1ヘクタールに3000本植えて、10年後に1000本くらい育っていれば下刈りしなくてはよいのではないか。

ただ、今回の宮崎県の除草剤散布実験は、単にとりあえず撒いてみようよ的な様子がかいま見れる。本気でやるなら試験地を決めて、何種類もの薬を時期と量を変えて散布方法も工夫を凝らして検証しないといけない。撒いた後数年間は土壌なり地下水なりの検査をすべきだろう。その上で是非や、種類、散布量、時期、そして方法などを科学的に論じてほしい。

 

 

 

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