農産物輸出1兆円の大嘘
ここ数日、自衛隊がイージス・アショアの導入で、設置場所の選定でとんでもないミスが見つかったというニュースが騒がれている。
果たして本当にミスなのか、最初から秋田にしようという心づもりで揃えた資料に無理があったのか。なんとなく、後者ぽい臭いがする。
というのも、同じことが幾つもあるからだ。
たとえば「林業の成長産業化」の一環でよく唱えられるのは、輸出である。昨年の木材輸出は、前年比7%増の351億円とまた増えた、と誇らしげに白書に書かれている。
同じように「農業の成長産業化」も唱えられている。そして輸出額の目標は1兆円なのだ。それが伸びている。2012年に4497億円だった農産物・食品の輸出額は昨年に9068億円まで増えたという。1目標の1兆円が見えてきた、これもアベノミクスの成果だ、世界中に日本食レストランができ、和食そのものが世界無形遺産に指定されたおかげで日本の農産物の優秀さがよく知られるようになった、と安倍総理の演説の得意部分でもある。
普通、日本の農産物や食品の輸出が伸びていると聞けば、何を想像するだろうか。米や野菜は無理だな。流行りは和牛に日本酒やワイン? リンゴやイチゴなど果物?
ところが日本農業新聞の記事によると、政府が発表する統計では何が輸出されているのかわからない、というトンデモな事実が判明した。 粘り強く日本農業新聞の記者たちは追いかけたのだ。渾身の調査報道だろう。
ようやく判明した品目で、トップを占めたのは798億円の「その他の調整 食品のその他」なのだ。その他のその他???
せっかくだからランキングを並べよう。
1 その他の調製食品のその他 798
2 パン、ケーキなどのその他 300
3 清酒 222
4 ソース用の調整品などのその他 194
5 紙巻きたばこ 160
6 ウイスキー 150
7 水のその他 146
8 リンゴ 140
9 ビール 129
10 スープなど 115
末尾の数字は輸出額。億円単位である。
清酒とウイスキー、ビール、リンゴ以外、なんだ???とハテナマークのつくものばかり。だいたい上位に「その他」が多すぎる。パンの材料の小麦などは輸入品だし、調整品というのは原材料は輸入しているものだろう。調味料も同じ。タバコはかろうじて日本で栽培しているのかもしれないが(輸入も多いはず)、ウイスキー、ビールだって大麦やホップには輸入も多い。「水のその他」なんてなんだ? ミネラルウォーターとかジュース類だろうか。これが農産物なの?
実は細かく見ると、野菜種子、小麦粉、みそ、ごま油、ゼラチンなどの加工品も大半が輸入農産物が原料。メントールなどの有機化学品(76億円)や化学工業生産品(17億円)、さらにゴム製品やココア・同調製品などもはいっているそうだ。加工食品の多くは輸入原料だから、日本の農業とはまったく関係ない。
まるで統計偽装である。農産物を可能な限り拡大解釈して、輸出額を増えるように見せかけたのか。そもそも財務省の貿易統計の数字をいじっただけで中身に興味がなかったのか。
実は林産物にも似たケースは聞く。製材や合板には原料が外材のものもあるのではないか。また中国やベトナムに輸出した国産材が、向こうで加工して木工品(家具や建具など)になって日本にもどってくるケースもあるはずだ。それも輸出統計に入れてしまうと、日本の木材が世界で欲せられているように勘違いする。逆に漆やコウゾ・ミツマタなど和紙原料はほとんど輸入だが、林産物扱いだし。
本当は、こうした調査をするのが業界紙の真骨頂であるべきなのだが、はたして林業界の業界紙は……?
農業も林業も、全然、成長産業になっていない。偽装統計もここまで来ると、国力の実態を偽装する国家になってしまう。
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こういう嘘っぺえ発表は第二次安倍政権になってから目立ってきたような気がしますが、僕が無知なだけで実際は昔からあるのでしょうか…?
投稿: ポンコツ元伐採工 | 2019/06/20 21:19
さて。以前はどんな統計を発表していたのか。
もはや偽装国家ですから。官邸の期待する数値が出なければ、集計の手法を誤魔化すぐらいは簡単ですからねえ……。
投稿: 田中淳夫 | 2019/06/20 21:58