無料ブログはココログ

森と林業と動物の本

« MMTは将来への先送りか、先食いか。 | トップページ | 乙事主がいた »

2019/07/11

ヨコワとスギ~若年層を浪費する日本

スーパーマーケットの鮮魚売り場に並ぶ刺身の舟。たまに見かけるのがヨコワだ。

ヨコワとは、クロマグロの幼魚のこと。これは関西の言い方で、関東ではメジというらしい。明確な定義はないが、重さ30キロ未満、3歳魚までのマグロの別名だ。マグロも出世魚であったか。30キロ未満というが、実際に出回っているのは見たところ数キロだろう。そんなに大きくない。ただ30キロ未満のマグロは未成熟な個体だから幼魚であり、卵も生んでいないはず。

味は、マグロ(成魚)と比べて脂が少なめで、さっぱりしている。それを好む人もいるが、値段はぐっとお安い。マグロとは肉質が違うことに加え、漁場が近くてわりと獲りやすいうえに、一度に獲る量が多いので水揚げ量としてはだぶつきやすい。それに扱いは雑になって質が下がるから……という。悪循環だ。

以前はそんな幼魚を獲ることはなかった。ヨコワ、メジが一般消費者の手元に届くようになったのは、わりと近年のことだ。

Orig_201502210553410

なぜなら大型の成魚が減って獲れなくなってきたから幼魚まで獲るようになったのだから。しかし幼魚を獲れば獲るほど、成魚になる魚は減ってしまう。だから止める、のではなく、さらに幼魚を獲る……。
それは最近ではサンマでもやってくる。脂がのって大きく育ったサンマが秋に獲れなくなってきたら、なんと漁期を決めずに周年獲っていいよ、と水産庁が言い出したのだ。結果として小さな脂も少ないサンマを春先から獲っている。秋のサンマはいよいよ獲れなくなるだろう。

ちなみに太平洋クロマグロの場合、1980年代に60年代に比べて1/10近くにまで資源量が減ってしまった。その後も低位安定というかじりじり減っているのだろう。国際機関でも資源量が問題になり、2014年からは30キロ以下の小型魚(ヨコワ)の捕獲制限を始めている。日本は本気で守っているのか知らんけど。

……というような記事を読んだ。なるほど、漁業と林業は相似形だな、と思えた。


日本の林業も、同じことをやっているのだ。樹齢数百年、成熟するのに少なくても150年はかかるとされるスギを、50年60年で大量伐採しているのだから。だが、それでは大径木材は得られない。また材質も落ちる木材を出回らせる。ただ量だけを出すから市場でだぶついて価格は下落……。そこで利益を確保するためにより大量に伐る、という悪循環。

森林資源はたっぷりあると言いつつも、実は大径木・長大材はすっかり減ってしまった。材質のよい木材も減少している。大トロ材質のスギは少なくなった。

日本人は、未成熟な資源を無駄に消費するのが好きらしい。そういや国民だって、若年層を痛めつけているな……。

« MMTは将来への先送りか、先食いか。 | トップページ | 乙事主がいた »

林業・林産業」カテゴリの記事

コメント

大径材は増えているんじゃないですか?
森林総研でも県でも大径材の加工・利用技術について研究してるみたいですが

大径木の基準が違います。増えているのは、せいぜい60センチ程度。樹齢も60年前後。成熟した大木と呼べるのは、樹齢150年以上、直径1m近くはないと。
しかも、スギはともかくヒノキの大径木はほとんどないですね。

60上だと、製材機械(台車など)のくさび等のチャッキングが外れてしまう。伐根屋
だったら良いと思うが、長さがあると辛いかも。
政治と研究は世間とのすり合わせが難しい、と色々と経験して考えさせられた。
出来た物やシステムの評価が高くとも、実用や運用で軌道にのれない。
実証実験など等では太鼓判を押されても、現実は厳しい。

製材機の問題は、それに合わせて揃えれば済むことです。もちろん業界全体がそれに合わせるのには資金も必要だし、時間もかかりますが。
木材を生き物という認識をして、もっともよい状態で使う覚悟が入りますね。

大径材が求められる市場もあるとは思いますが、製材効率の観点からはあまり望まれないと思われます。したがって、育成と利用に棲み分けが必要ではないでしょうか。

林業的には、大径木に育ててから伐出する方が生産効率的には圧倒的に優れています。1本伐るだけで何立米にもなりますからね。製材面でも芯去りで採れるし、歩留りも上がって効率は高まります。欧米では、製材工場も大径木仕様になっているのでしょう。(オーストリアでは、50センチを超えるとダメと聞きましたが。)

収穫まで150年待つ間の機会損失は搬出効率で埋められないと思います。芯去りは欠点除去にはなりますが、大径木から採らなければいけないサイズの製品需要自体が減っていると思います。歩留りもそれほど良くはならないでしょう。大割りが思い通りに取れれば歩留りは良くなるでしょうが、大径木から小割製品を取ると歩留り低下につながります。古木は芯腐れも多くなります。欧米は中小径木の製材が主体です。大きい製品サイズは集成材でまかない、製品サイズ自体が少断面が中心なので径の揃った材をハイスピードで製材する方が効率が良いからです。

製材とか木材生産の視点からだけ見るから、そうなるんです。

森林生態系の維持を第一に、負荷と収穫(物の質と量)を天秤にかけて行うのが「林業ですよ。

素材供給業としての林業と環境保護の両立を図る現実的対応として、長伐期施業と循環施業の棲み分けを提起したものです。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« MMTは将来への先送りか、先食いか。 | トップページ | 乙事主がいた »

May 2025
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

森と筆者の関連リンク先

  • Yahoo!ニュース エキスパート
    Yahoo!ニュースに執筆した記事一覧。テーマは森林、林業、野生動物……自然科学に第一次産業など。速報性や時事性より、長く読まれることを期待している。
  • Wedge ONLINE執筆記事
    WedgeおよびWedge on lineに執筆した記事一覧。扱うテーマはYahoo!ニュースより幅広く、森林、林業、野生動物、地域おこし……なんだ、変わらんか。
  • 林業ニュース
    日々、森林・林業関係のニュースがずらり。
  • 森林ジャーナリストの裏ブログ
    本ブログの前身。裏ブログとして、どーでもよい話題が満載(^o^)
  • 森林ジャーナリストの仕事館
    田中淳夫の公式ホームページ。著作紹介のほか、エッセイ、日記、幻の記事、著作も掲載。