同じことを語りつつ正反対?『森と人間と林業』
『森と人間と林業』(築地書館)が刊行された。著者は、村尾行一氏。村尾先生、これが最後、これが最後と言いつつ次々と新しい本を出すのだから……笑)。『間違いだらけの日本林業』『森林業』に続く第3弾だ。
ちなみに発売日は、7月31日になっている。拙『絶望の林業』とかぶっていること(笑)。校了日も、ほぼ一緒。この夏は、林業本の出版ラッシュか?(改めて『絶望の林業』は、奥付けを見ると、発売日が8月17日になっていたよ (゚o゚;) 。)
目次も引用しておこう。
まえがき
序章 日本林業の心理と行動
1 森との永遠の会話
2 大きなチャンス
3 「木材栽培業」の不条理
4 日本林業、こうすれば復活する
5 日本林業近代化の道
第1章 森と木の文明史的意義
1 木材活用の意味するもの
2 木材の長所
3 木材の新用途
第2章 日本林業の基本問題と基本対策
1 日本林業はこれから伸びる
2 林政が目指す方向とは
3 「外材問題」の所在
4 「木材革命」が折伏した役物信仰
5 好況時代
6 「拡大造林」の原罪
7 乾燥の勧め
8 林業における流通の意義
9 里山の意味と意義
第3章 ドイツ近代林業前史
1 近世林業の誕生と破綻
2 近代林業の曙
3 ターラント学派の限界
第4章 ドイツ近代林業の個性
1 ドイツ近代林業の確立
2 「合自然的かつ近自然的林業」とは何か
3 近代都市における森とは何か
4 近代林業の経済的メリット
5 「多機能林業」
6 「フリースタイル林業」
7 「恒続林施業」
第5章 林業人はいかにして育てられるか
1 林業は「人」なり
2 初等教育と「森の幼稚園」
3 中等教育
4 零細林家と林業作業員の育成制度
5 上級林業人と高等林業人の育成制度
6 ドイツ語圏の「フォレスター」
7 日本林業と担い手問題
第6章 森へ行こうよ
1 ドイツ人にとってのウアラウプ
2 最も人気のある滞在地は森
3 森での歩きのレクリエーション
4 森の宿
第7章 日本林業で実践されていたドイツロマン主義林業
1 回顧
2 接点
3 暁鐘
あとがき
内容というより、私が読み取った点を紹介するが、前半は、ドイツ林業の変遷を追いかけつつ、いかに方針を転換してきたかを描いているが、そこで日本が「いつの」ドイツ林業を学び、本家が転換してからも昔のままの理論を振りかざして続けているかということが浮かび上がってくる。本家?が先に進んでいるのに、分家の日本は駄々をこねて100年ほど昔のまま座り込んでいることがよくわかる。
その結果、いまだに単一同樹齢林の育成と、大面積皆伐を繰り返す断続的な林業を続けているのだ。
次に感じたのは『絶望の林業』でも取り上げた林野庁の姑息さをより鋭く突いていること。具体的な例を引くと、
「新たな森林管理システム」の徹底批判の中でも指摘するのは、一見、国は都道府県を飛ばして山林にもっとも近い自治体(市町村)に権限を譲るように見せて、実は林野庁が瑣末な事柄まで指導(通達、準則、課長解釈、課長補佐指導、係長説明……)を行い、実質的に林野庁の直轄事業にしてしまいかねないこと。
森林林業白書2017年版にあるオーストリアのフォレスターの業務説明に、「林業経営の集積・集約化」というありもしない業務を付け加えた我田引水。さらにスイスのフォレスターの業務を説明する文面に、もっとも肝心の「造林育林業務」を含めない姑息さ。いずれも、日本のフォレスター(林業マネジメント者?)に合うようにこっそりいじったのだろう。
ただ拙著と決定的に違うのは、悪いのは人間なんだから、人間が変わればすぐによくなるよ、という明るい未来、見通しを語っていることだ。理想の恒続林や持続システムなんて、すぐ作れる、ドイツはそうだった、というのである。
その点私は、人間が悪いんだから、よくすることは不可能だ、日本人には無理だ、絶望だ、と結論づけている(笑)。私の語る「希望の林業」は、できるもんならやってみな、と突き放しているのだから。
同じことを語って正反対の結論にたどり着く。さて、どちらを信じるかな。
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