役所用語と河畔林の伐採
台風19号の洪水状況を空撮映像で見ていると、河畔の樹林帯もかなり水没しているのが確認できる。
つい河畔林は洪水対策に有効かどうか考えてしまった。昔から河畔には竹を植えたりして堤防補強につなげたりしたものだが、河川沿いに樹林帯があることで多少とも水があふれるのを押しとどめたかもしれない。一方で、逆に水を滞留させて流れを悪くすることで越水させる元にもなる可能性もある。ただ河川に沿って森林があることで動植物の生息地として需要な役割を果たすのはまちがいないだろう。とくに広葉樹が多い河畔林は、貴重な生態系を生み出しているはずだ。
もちろん今回の災害は、その雨量が記録的で、河畔林どころか堤防やダムだってほとんど無力だったといえるが……。
そんなときに、こんなものに目を通す。
東北森林管理局の「30年度地域管理経営計画及び国有林野施業実施計画」である。この中の配布資料に目を通していて、興味深い文言が目に入った。
ここでは「渓畔林」という言葉を使っている。そして森林生態系ネットワークを築くために重要だとしている。
だが、別のページをよく見ると、ちょっと引っかかる文言があった。
「渓畔林は適切に保全」とある後に、「有用広葉樹がある場合、周辺の人工林の伐採の際に一部利用することも検討」。さらに「間伐等を繰り返すことで大径木育成」「林道沿いの大径木は人工林の伐採の際に利用」なんてある。
なんだ、伐る気満々ではないか。間伐とか大径木育成とか言葉でごまかしているけど、これは河畔林の広葉樹材を得るためというのがミエミエである。「大径木育成」がいつのまにやら「大径木利用」に置き換わっている。言葉を微妙に変化させているところが怪しい。なぜ大径木を育成しようと書きつつ、大径木を伐るのか。
「伐採指定状況」でも、皆伐地の下斜面に当たる沢筋を「間伐」するというが、河畔林の防災能力を落としかねない。
国有林では、スギやヒノキは価格下落で儲からないから大径木の広葉樹を伐りたい願望は昔から強い。大径木の広葉樹材は非常に高値がつくからだ。スギの数倍、十数倍の価格も珍しくない。だから伐りたいのだ。
そもそも国有林の多くが広葉樹林でもある。ただし、天然林を伐ると言うと世間の反発が出る。そこで「渓畔林」という言葉で、その中の大径木広葉樹を伐ることを推進しようとしている……ように読める。しかし河畔林を木材生産する場とすること自体が無理があるのだ。
間伐といえども伐るために重機を入れたら林地を荒らすし、堤防機能を弱めかねない。川の近くだから増水時に水に浸かる可能性もあり、流木発生源になることもあるだろう。伐採跡地が災害を発生させる心配はないだろうか。
こうした役所用語で綴られた計画などは、よほどよく読まないと真意をつかめない。
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