漆採取は林業か農業か
最近、漆が話題になることが増えた(と、私的には思う)。何かと国産漆が記事になっている。
おそらく、文化庁が文化財の修復に使う漆は国産にしろ、と号令をかけて、増産が課題になっているからだろう。何しろ年間約2,2トンは必要なのに、現在の生産量は半分ほど。2014年は645キロと4分の1まで減ったのだ。
漆の増産と言っても、まずウルシノキの栽培が必要で、そのためには苗木の生産から始めなくてはならず、そして約15年かけて育てても、漆掻きをする職人を養成しなくてはならず……となかなか道は遠い。
実は、奈良県は日本の漆の原点らしく、かつては漆部(ぬるべ)があったとかで、再びウルシノキを栽培の話もあるが、全然進展していない。植えても枯れるし、住民はかぶれるからと反対するし……。ウルシノキの栽培は、なかなか難しいらしい。
日本でイチバンの産地である岩手県二戸市浄法寺町は「漆林フォレスター」を任命したという。この名称に惹かれたのだけど(^^;)。もっとも実態としては地域起こし協力隊の一人らしい。
ここで私がふと考えたのは、ウルシノキの栽培と、そこから漆(樹液)の採取する仕事は、林業なのか、という疑問だ。浄法寺町では森林組合が取り組んでいるようだし、フォレスターと名付けたのだから「林業」と位置づけているようだが。
まず生産物は樹液である。たしかにメープルシロップのような林業的な樹液生産もあるが、イメージ的には果樹園のような園芸に近くはないか。樹木としては15年だから、これも林業よりは果樹栽培に近い気がする。作業的にも、自然に任せて育てるというよりは毎年の世話が必要で、樹液の採取作業も農作業に近く感じる。
林業か農業かという区分は端からするとどうでもいいように思うが、実は意外とやっかいだ。
なぜならウルシノキを植える場所をどこなのかという課題がある。樹液を採取する作業を考えると平地の方がよい。急斜面だと厳しいだろう。それに成長も土地が肥えている方がよいらしい。……そう考えると農地に植えるべきだ。ちょうど耕作放棄地も増えているし……。
が、ダメなのである。農地に林産樹木を植えるのは、法律違反らしい。地目が山林でなければいけないらしい。なんともくだらない話だが、これで栽培適地は一気に減ってしまう。
これで増産しろというのは、根本的に手足を縛っているようなもんだ。
それに……文化庁は国産漆が欲しいと言いつつ、肝心の買取価格は上げていない。安いまま増産しろというのもおバカな話である。現行価格の3倍で買い取るぐらいのことを言って初めて、ではウルシノキの苗づくりをしよう、植林しよう、そして漆掻きを職業にしよう、という人が現れるのではないか。現場の待遇をよくせずに増産をめざす点も、林業的?である。
ついでに栽培技術と樹液採取技術の再構築もすべきではないか。
現在は、15年間育てたウルシノキを一夏搔いたら、その木は切り倒す(殺し掻き)が、これはどう考えてももったいない。毎年樹液採取(養生掻き)すると、漆の品質が落ちるというのだが、それは樹木を休ませないからだろう。数年間休ませたら、またよい樹液を出すのではないか。たとえば3年間休ませるとしたら、4年毎に樹液採取ができることになる。それは苗を植えて15年後に一度採取してオシマイにするに比べて約4倍の生産にできるはず。……そんな研究は行っていないのだろうか。採取したら切り倒すというのは林業的だが、これも農業的生産方法に変えることで増産につながらないか。
さらに樹液の掻き取りも、自動化できないか研究の余地はある。あまりに原始的な採取方法が何百年も続いている。
まあ、素人考えであるが、現状のままの漆増産の掛け声は、あまりに絵空事ぽく感じてしまうのだ。
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地方には耕作されていない農地がたくさんあり、ここに木を植えて有効活用し、森にしたいと考えています。貴ブログで「農地に林産樹木を植えるのは、法律違反らしい」とあります。これをもう少し突っ込んで、「らしい」ではなく、「だ」と解説していただきたい。たとえば、柿(実がなる)や椿(花が咲き、種から油がとれる)だとか、桑(葉っぱで蚕を飼う)だとかならば、林産樹木ではなくて、植えてよいのでしょうか。お教えください。
投稿: 浦 環 | 2019/11/29 02:43
自分で調べてください。甘えちゃいけない。
実際にそう指摘されて断念した例があるから記したのです。
投稿: 田中淳夫 | 2019/11/29 08:58
今朝のNHKの解説委員室でもやっていましたね。https://www.nhk.or.jp/kaisetsu/kurashi/
投稿: しんたろう | 2019/11/29 22:56
そうでしたか。
私もウルシノキを粉砕して樹液を絞る研究は知っていましたが、まだ未完成だし、本当の増産になるのか、よくわからない。
投稿: 田中淳夫 | 2019/11/29 23:10
山林に隣接する山間耕作放棄地に栽培作物への鳥獣被害防護柵を受益者負担として求める今の国に栽培作物指定の権限などない。ただ、農地の用途や評価の見直しによる地目の山林化は、自治体への税収を増やし、売買や賃貸をしやすくし、企業投資を積極化させる。
投稿: 窪田征司 | 2020/12/22 08:35