林野庁HP「森林の多面的機能に関するQ &A」
林野庁のHPに「森林の多面的機能に関するQ &A」なるページが作られていた。
よくある、森林に関する環境面に関する質問に対して、科学的な説明を一括して行ったと言ってよいだろうか。各種論文の要旨がずらりと並んでいる感じ。それぞれの項目の分量は膨大なので、本気で目を通そうとするときついよ。学者の文章だから覚悟がいるけど。
ちなみに、冒頭にはこのように記されている。
このQ&Aは、学術的知見の検索を目的として作成したものです。引用されている文献は、平成28年度森林整備保全事業推進調査(受託者:一般財団法人林業経済研究所、文献収集期間:平成26年度~平成28年度)により取りまとめたものです。
Q&Aにおける回答内容は、限定された条件下における見解も含まれるため、回答内容を参照する場合は、必ず学術文献の原典の内容を確認するようお願い致します。
また、本Q&Aの著作権は林野庁に帰属しますが、Q&Aにおける回答内容は林野庁の公式見解として整理されたものではありませんので、取り扱いにはご注意をお願い致します。
1. 森林の多面的機能の一般的事項 Q&A(PDF:314KB)
2. 水源涵養機能 Q&A(PDF:2,398KB)
3. 土砂災害防止/土壌保全機能 Q&A(PDF:1,521KB)
4. 快適環境形成機能 Q&A(PDF:1,843KB)
5. 生物多様性保全機能 Q&A(PDF:2,342KB)
Q&Aの作成体制
森林研究の結果を濃縮したようなものだから、もし森林の多面的機能を論じたいときは目を通すとよい。意外と世間の常識とは反対のことも書いてある。
ただ、それでも私は、一読してなんだか妙な気になった。大半の項目の質問は「間伐の実施は」で始まり、その後、「枝打ち」や「皆伐」なども登場するが、それぞれの実験結果の事実を羅列しているように見えて、その文章の読みにくさが「だからなんなんだ」と感じさせてしまうのだ。たとえば皆伐したらいいの?悪いの?という結論部分が両論併記で曖昧になっているからだろう。
もちろん科学的に計測されたデータ結果と結論を否定はしないが、いみじくも上記に「限定された条件下」など逃げ道も記してある。ただ現実には、いい加減な間伐が森林を傷つけ劣化させているケースも少なくない(そこは「良好に実施された間伐は」といった言葉遣いで逃げ道を作っている)し、間伐しなくてもよく育つ健全な人工林だっていっぱいある。
良好に実施された間伐と、現在増えているいい加減な定量的な間伐の違いを明確に示さないから机上の空論ぽく読めるのだ。
それでも一般的な常識に対する「否定的な事例」も紹介されているから、じっくり目を通すことをお勧めする。
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林野庁の「森林の多面的機能に関するQ &A」をお知らせいただき、ありがとうございました。読んでみましたが、わかりにくさは、それぞれの機能が生じる「普遍的な根拠」が説明されていないからだと、わたしは思います。
森林生態系は、大気・水・化学物質の循環や地殻変動などの地球活動に抵抗・順応し、さらにフィードバックによって相互作用関係を持っています。こうした森林生態系自身の普遍的なレジリエンスが、結果的に人間社会にとって何らかの価値とつながるために、多面的機能として現れるわけです。
ですから、洪水流出緩和機能は、森林の成育に必須の土壌が侵食されないように根を張って急斜面上に保持することから、結果的に現れてくるのです。
また、渇水時の流出を増やすためには、根が腐って土壌が保持できない事態を避けながら、樹木の成長を除去・抑制せざるを得ません。皆伐・間伐・里山施業など、森林生態系が旺盛に成長させないようにして初めて、水流出が増やすことができるわけです。
ただし、最近の研究によると、シベリア・アマゾンのほかボルネオなどでも、森林蒸発散を通じた水リサイクルによる降雨増加が森林成育に必要な湿潤環境を支えていることが明らかになっています。こうした地域では、湿潤気候そのものが森林生態系のレジリエンスの結果なので、乾燥化につながる広域伐採は避けるべきだということがわかります。
こうした研究結果からみて、森林の多面的機能がいろいろあって、地域や場合によって異なるという曖昧さを避けるためには、森林生態系自身のもつ普遍的な根拠が確かに存在することをまず最初に明確にするべきだと考えます。
投稿: 谷誠 | 2019/11/16 17:53
ありがとうございます。もともと論文は読むのが大変なんですが、それを要旨としてまとめる際に、また複雑な書き方になってしまうという……なんとか正確に書きたいという思いと、わかりやすく書くという使命は両立させるのは至難の業であることを、文章で食っている私が痛感しています。(この文もわかりにくいなあ。。。)
投稿: 田中淳夫 | 2019/11/17 00:10