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2019/12/26

『科学はなぜ誤解されるのか』から「理解のバイアス」を考える

平凡社新書『科学はなぜ誤解されるのか』(垂水雄二著)読了。

これはダーウィンの『種の起源』、ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読み解きながら、科学のコミュニケーションの難しさを論じている本。著者は科学ジャーナリストだが実は博士号を持つから、自身も科学者である。

科学的な情報の伝達は、たいてい失敗する。コアな専門家はともかく、一般人は誤解が多くまったく違った解釈をしてしまう。実はダーウィンの進化論も、世間に伝わっている内容はかなり誤解があるそうだ。遺伝子レベルの進化を突き詰めたドーキンスに至ってはタイトルが過激?ゆえ、読んでもいない人から批判が相次ぐ……。

私も自然科学的な森林を扱う過程で、この主張に納得する。先に私は東京で文章講座の講師を引き受けたが、そこで私が話したのは、メディア・コミュニケーションにおける「なぜ伝わらないのか」である。話す時間が圧縮されたので骨格しか話せなかったのだが、たいてい伝えたいことの半分どころか3分の1も伝わらない・読者に理解されないのが一般的な状況だ。その中でどう振る舞うのか?

そこで、この欄でも話の一部を論じたい。理解されないバイアスの正体を見つけるためだ。

私はそれを「情報源」「書き手」「読み手」の3つの要素に分けて考えたのだけど、理解の手引きとしたのは、上記の本と行動経済学だ。後者は人は損得など合理的に動くことが前提の経済学が、現実の経済では人の不合理な行動で想定外の動きに惑わされてしまう。その人間の行動を分析した経済学である。一昨年だったか、ノーベル経済学賞を受賞している。

たとえば思い込み・常識に縛られて客観的事実を受け入れられない「現状維持バイアス」とか、自分の経験を至上のものとする「現場(経験)主義バイアス」などがあるが、ここで取り上げたいのは不愉快なことを遠ざける「自己奉仕バイアス」である。

簡単に言えば「書き手は読み手の同意・称賛を期待する」「読み手は自分の期待する内容だけを選択する」という心理学的な動向。

書き手は、記事を執筆する際にできるだけ「いいね」がほしいと無意識に思う。そして「いいね」をもらいやすい世間が求める解釈を描きがちになってしまう。集団心理に忖度するのである。
一方で読み手は、そもそも自分で考えるのは嫌い(認知的節約)で結論だけを求める。そして理解できたところだけ受け取る(認知的不協和)傾向があるのだが、それが発展すると、自分が心地よいものだけを受け取り、不愉快な事実は拒否するようになってしまう。……結果として不愉快な点は、無視するか、反発するかなのだ。

これは拙著『絶望の林業』に限らずこれまでも見られたことだ。たとえば森林組合がいかにでたらめなのかを書くと、森林組合に勤めている人にとっては自己否定されたことになるから不愉快になる。私が客観的事実を伝えても納得しない。たいてい「あなたは影響力が大きいのだから、発言は慎重に」とかいって「忖度」を要求する。もしその人に関わることを私が褒めた場合は「慎重に」とは絶対言わずに「もっと、もっと」と喜ぶだろうに。

そして論理的な反論ではなく、ひたすら「私が喜ぶことを書いてくれ」と要求するのだ。逆に私を拒否する、FBやツイッターのフォローも外す……という方向に向かうこともある。これこそSNSに見られるエコーチェンバー現象(閉じたコミュニティ内で同じ意見ばかりが増幅されて発信を繰り返す)のもたらすもっとも残念な行動だ。

どうやら「なぜ伝わらないのか」というより、「不愉快な話は聞きたくない」「糾弾されそうな記事は書かない」症候群なのだろう。

それでも私はイヤな内容を繰り返し記す(話す)。批判レスが着けばつくほど、その話をする(^^;)。以前、講演で補助金の弊害を訴え、また補助金をなるべく使わないで行う間伐などを紹介したが、会場からは反発の嵐。そして「オレたちは補助金で食っているんだ」という言葉まで飛び出す有り様だった。しかし、私は不協和音を引き起こすのもコミュニケーション手段と思っている。異論を読ませて、拒否感の中で理解させる・考えさせることは可能ではないか。

そこでは「タイトルは過激に、本文は誠実に」と唱えている。タイトルに惹かれて本文を読み、なんだ、わりと真面目に論じているな……と思わせるのだ。もっとも(ネットでは)タイトルしか読まない読者も少なくないけどね……。ここまで読んだ貴方はエライ\(^o^)/。


 

 

 

 

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