「首里城復元」のための木材は国産ヒノキに?
昨年10月に火事で焼けてしまった沖縄・首里城正殿。その復元工する工程表が決まった、と発表されている。
新聞記事には、2026年までに復元するという点が強調されていたが、気になる使用する木材をいかに調達するのか触れていない。そこで調べてみると、ようやくわかってきた。
まず正殿の柱に必要な大径木材は、約150本。それをどこから調達するか。前回のようにタイワンヒノキはもう使えないぞ、というわけで、有識者会議なども開かれたようだ。私もYahoo!ニュースに「首里城復元に使うべきはスギだ……」という記事を書いた。
私の場合の論点は、極めて簡単。過去の首里城はスギで建てていたと思われるからである。ただし日本のスギと中国のスギ(コウヨウザン)の両方が有り得る。それなのに前回の復元ではタイワンヒノキを使った。そもそも、ここから間違っているのではないか。復元なら、なるべく以前の首里城と一緒の材料を使うべきだし、それが無理でも国産材にすべきだろう。となると、やっぱり国産のスギだ。
これは、私に言わせれば歪んだヒノキ信仰である。立派な(聖なる)建築物はヒノキがイチバン、という発想から来るのだろう。そしてヒノキなら国産でなくてもタイワンヒノキでもよいとなる。ときにカナダヒノキも使う例もある。
だが、ここがおかしい。日本のヒノキと台湾、さらにカナダのヒノキは基本的に別種である。見た目も違う。ヒノキという言葉で一括りすることが間違っている。
資源として比較的豊富にあるのはスギだし、何より国産。あるいは集成材なら現代の木材加工技術、建築技術を示す意義もあったはずだ。その時代に合わせて材料を選ぶのが自然である。それなのにスギはヒノキより劣っている、集成材なんかまがい物、という木材に対する「差別意識」があるように思えてならない。スギは曲げ強度や剪断強度はヒノキより劣るが、それは寸法を太くすればカバーできる。圧縮強度はたいして変わらず、柱にしても問題ない。さらに一般の建築物には集成材は大はやりだし、国も集成材の一種であるCLTを推進している。それなのに、なぜ使わない?
ちなみに戦前までヒノキ材とスギ材の価格がほぼ同じだった。つまり適材適所であり、本来は上下意識はなかった。ヒノキの方が高くなったのは戦後である。
今回の工程表では、国産ヒノキをメインとし、沖縄在来種のチャーギ(イヌマキ)なども、調達できれば可能な限り使用する……という方針だそうだ。それなら(タイワンヒノキ製だった)前回の首里城とも違うものになるだろう。
では、どこから国産ヒノキを調達するのか。「日本中の専門業者らで保管しているヒノキを調べたら、めどが付いた」(林野庁)そうである。
実は私も思っていた。探せばあるだろうな、と(笑)。
すでにその点もYahoo!ニュースに「廃業時代に失われる?日本の森が生み出した宝の行方」に書いたように、各地の材木店がひっそり在庫している大径ヒノキ材が結構あるとは聞いていたし、さらに山にも伐らずに残しているヒノキの巨木がそこかしこにある。山主が「この1本だけは」と残しているものがわりとあるのだ。でも、材木店の分はともかく、山のそれに手を付けてほしくなかったのに。
写真の自動車と木材の寸法を比べてもらえばわかるが、こんなヒノキ大径木材を眠らせている倉庫は結構ある。
この調子でイヌマキも確保するのだろうか。個人の庭や自然公園などに生えているイヌマキを探せばあるかもしれないが……。
それにしても、林野庁は森林や山主の立場ではなく、建築材を提供することに熱心だな、と改めて思う。仮に文化庁が「ぜひ!伐らせてほしい」と欲しがる木があっても、林野庁が「それは森林生態系にとって貴重な木なのです」と反対してほしかった。
せっかくだから、通常価格より高く買い取るべきだ。それがせめてもの林業界への貢献だろう。山主への還元を増やすことが、林業継続意欲にもなる。間違っても「首里城に使うから協力を」と値切るではないぞ。
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