研究成果と施策の齟齬~森林蓄積量は過小に見られていた?
突然、論文が送られてきた。正確に言えば、論文サイト(オープンアクセス)のURLだが。
送り主は東大の大学院教授。なぜ送ってくれたのかわからないが、私が喜ぶと思ったのだろう。はい、たしかに喜びました(笑)。
肝心の論文の内容だが、これはネイチャー系のサイエンティフィック・リサーチ誌に投稿したもの? ちょっと詳しい背景はわからないのだが、せっかくだから、ここにも紹介しておく。
タイトルは、Carbon stock in Japanese forests has been greatly underestimated
「日本の森林の炭素貯蔵は、過少評価されている」ぐらいだろうか。
しかし、英語の論文ですからな(笑)。しかもネイチャー論文ですがな。私が読むのは辛いがな。。。。
それでも無理して概要を紹介すると、日本の総森林蓄積(炭素量に換算)は、これまで公になっていた数値の1・6倍だった、そして森林の生長速度(二酸化炭素吸収速度で換算)も1・5倍だった、というもの。
なぜ、これまで過小評価してきたのか、という点については、収穫表が古くなっていること。現在使われているのが1970年代に作成された数値を使っているが、現在の森林とはかなり違うらしい。そしてこの収穫表が、森林面積の約10%(220万ヘクタールにものぼる)を含んでいないため、としている。
もう一つは、直接フィールドで計測した数値だが、そちらにも年代によってズレがある。たしかに面積はもちろん、森林の樹種構成や樹木の幹体積などの関係は次代とともに変わる。そんなことは分かりきっているのに、これまで修正を加えなかったのか。
これを、ちゃんと証明しより正確な数字を出したのだ。と言っても、私は十分に読みこなせていない(-_-;)ので、誰か読み込んで正確に解説してほしい(笑)。
ただ、公表されている森林総蓄積が過少であることは従来から言われていたから、私自身はそんなに意外感はないかな。さすがに1・6倍という数字を示されると、誤差がデカすぎと言わざるを得ないけど。ちなみにスギとヒノキは日本の総森林の炭素量の34.5%を占めているらしい。
こうした数字が出てくると、今後の全国森林計画にも反映される必要があるだろう。林野庁や環境省は喜ぶか? この数字を使えば、日本の二酸化炭素削減量(森林吸収分)は一気に増やせるかもしれない。あるいは「日本の森林は飽和状態」という言い分を強調することにも使える。
ところで同じことは地球全体の森林面積にも言えるのではないか。私も記事にしたが、以前のネイチャー論文(2018年)で、地球上の森林面積は増えている、というものがあった。ほかにも幾つかの研究結果で森林の増加は紹介されている。中国やインドなどで造林面積が爆発的に増えているからだ。論文1本2本ですべて信じろというわけではないが、考察の大きな転換になるはずだ。
ところが国連の森林戦略計画(2017年)では、今も地球上の森林は減少しているとする。そして30年までに森林面積を3%増やすという目標を示している。ネイチャー論文などで示された新知見に基づいて方向転換する様子は伺えない。まだまだ「森は減っている!」と言い続けるだろう。
実際、今も世界の森林は略奪的林業のために減り続けている、と信じる人は多数いる。それに基づいて政策なども語られる。だが、実際はどうだろう。もはや略奪的林業を行っているところは少数派ではないか。熱帯地域でさえユーカリやアカシアなどの植林は進んでいる。あるいは1ヘクタールあたり1~2本の伐採なら破壊していると言えるだろうか。またヨーロッパの天然更新は、基本的に植林をしないが育成林業と言えるのか。逆に育成林業でも、乱暴で伐りすぎている地域は山ほどある。
もちろん質的な問題はあるが、少なくても量的には増えているとしたら、森林政策も考え直さないといけないのではないか。
科学的な研究成果が、実際に普及するにはタイムラグがあるのは仕方ないが、それが長くなればなるほど大きな齟齬が生じる。そして取り返しのつかないことになるかもしれない。
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