奈良の新しい書店と、書店業界の行方
ちょっと買い物に出かけたが、それだけで帰るのはもったいない、しかし雨の中、山に入るわけにも行かない……と車を走らせていたら、「奈良県コンベンションセンター」の標識が。よし、ここを訪ねよう。
この施設、4月にオープンしたのだが、即休業。コロナ禍で出番を失っていたが、その中心テナントが蔦屋書店。かなり大規模書店という噂である。それが奈良県の「緊急事態宣言」が解除したのを受けて開業したと聞いていた。そこを覗いてみようと思ったのだ。
奈良県に大型書店は少なく、しかもほとんどがショッピングモールなど複合施設に入っているので、緊急事態宣言で閉められると、自動的に書店も閉まる。だから長くリアル書店に行っていないのだ。久しぶりにリア書店で本を眺めたくなった。
もっとも、蔦屋である……。いくら大規模と言っても、その品揃えは。。。だが大規模である(^^;)。どうなっているのか確認したい気持ちもあった。私的には、理系の書棚を眺めたいのだが、あまり期待できないかなあ……。
幸い地下駐車場もあり、1時間まで無料。これは有り難い。奈良の中心街の駐車場は1日1000円とか取るのだ。観光地価格である。30分で済む野暮用なのに、停めると一日料金を取られてしまう。まあ、いろいろ裏技を駆使するが、1時間あれば書店見学としては十分。
たしかに広さは十分。しかも1、2階を占める。期待できるか? もっとも蔦屋である……。
やっぱりオシャレですなあ。しかも内装には木をたっぷり使っている。奈良県産かどうかはわかならいが、相当質のよいヒノキ。
さて、品揃えは……やはり蔦屋である(^^;)。広い割には少ない。雑誌なんかほぼ全部平置きだもんね。表紙を見えるように陳列すれば、場所を取り数は減る。ただ全般に奈良を意識した本も多かった。観光関係はもちろん、歴史本や古建築、木工芸などわりとこだわりの本が目につく。
その一画に「サイエンス」棚があった。その中に農林業本も含まれる。やっぱりスペースを取ってグリーンインテリアなんぞもあって、オシャレにキメている。
ありました。森林・林業本はこれだけ。ま、そこに『絶望の林業』があったのだから、よい書店だ。蔦屋、頑張れ。
さて、これで所期の目的は達したわけだが、こうしたモダンな書店をウロウロすると、どうしても考えるのが書店の未来。いや出版界の将来。
1990年代と比べると、出版界の売上は半減している。書店数も半分近くになった。電子本はそれなりに伸びているが、ほとんどコミックだろう。そしてマンガ雑誌も売れていない。本当に本が売れない時代なのだ。
そして書店業界というのは林業界と並ぶほど、旧態依然として何にもしない工夫しない世界だった。単に配本を書棚に並べて、売れなかったら送り返すだけ。殿様商売、大仏商法だったと思う。
しかし、このところ、さすがに危機感を持って新しい取組を始める書店も現れた。その一つが蔦屋書店なんだろう。ビレッジヴァンガードもそうだ。スタンダードブックストアもあったか。
その方策と言えば、まず本だけでなくほかの商品も並べる。CD、レンタルビデオ、ゲームソフトもあったが、ほかにもグッズ類。これまでの、せいぜい文房具ではなく、積極的なグッズ販売だ。さらにカフェとかバーを設けたりもする。いわゆる多角経営。そして著者を招くなどトークイベントも主催して集客努力を行う。
それはよいのだが、問題は売れるのは本ではなくグッズの方が大きいこと。すると、だんだんグッズが主流になり、本の置き場が縮小されがちになる。たたでさえ本の数は少なめなのに。そのうち本屋ではなくなりそう。
やはり本丸の本を売ってほしい。最近は逆手にとって、グッズを扱う店に本を並べる動きもある。扱う商品に合わせて工芸本とか、服飾店にファッション雑誌とか。ほかスポーツ店などにもある。これも努力の賜物。頑張ってほしい。本を置くことで店のステータスを上げ、インテリア的な効果があるのかもしれない。だが……。
書評が出ても、あんまり影響力がなくなっている。そのくせSNSには反応するんだから、専門家の影響よりも身近な人のオススメが重要なのかもしれない。何か本に関する情報の流し方を根本的に考えないといけない。書店も独自にポップをつくって書棚に張り出したり、書店の店員が選ぶ(小説の)本屋大賞を設けたり努力していただいている。まあ、私的には、書店員が選ぶと文系本に偏りがちという恨みがあるのだが……。
出版点数は減っていないというか増えている。ロットは減っているのにアイテムを増やしている。これは多様性が出てよい面もあるが、書棚に全部並べられなくなり売りにくい。コスト高にもなる。書籍とは、マニアックなものになっていくのだろうか。
どうも書店の未来が見えにくい。執筆側としては、私は書き上げたら売るのはおまかせ、次の本の内容を考えるのに専心したいと思うのだが、そうも行かない。悩みは深い。
ちなみに蔦屋書店でもっとも気に入ったのは、これ。
ガラスの壁をよく見たら、シカや鳳凰やらが描かれていた。奈良だなあ、と私は喜んだのである(⌒ー⌒)。
や
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