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森と林業と動物の本

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2020/05/28

森林破壊は人類の進化の記憶?「第三のチンパンジー」

私が傾倒している学者というか著述家の一人にジャレド・ダイアモンド博士がいるが、現在読んでいるのは「第三のチンパンジー」(草思社)。

この本は、代表作の「銃・病原菌・鉄」「文明崩壊」などのエッセンスを濃縮して、さらに新しい情報にアップデートしたような作品だから、オススメである。

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ここで細かな本の内容は紹介しないが、大きな問題意識として人類の環境破壊がある。

一般に、古代の人類社会は環境と共生していたが、近代、産業革命以降は破壊を進めた、というイメージがある。とくに白人が世界中に進出していく過程で森林破壊は進み、人同士の殺し合いが頻発しジェノサイド(大量虐殺)を引き起こすようになった。なかには「日本人は自然を愛し共生社会を築いたが、西洋人の文明は自然を破壊しつくした」とゴタクを並べるトンチンカンな学者もいるが……。

ところが、そうでもない。そもそもジェノサイドは人間以外の動物でも起こす、というか人間以上にしでかす。異種だけでなく同族も殺す。そして人間も古代ギリシャ人やローマ人などは各地で行った。モンゴルもそうだろう。またニュージーランドのマオリ族の恐ろしさは、まさに各地でジェノサイドを繰り返していくつもの民族を滅ぼしたことにある。そして動物たちも殺して絶滅に追い込んだ。モアが滅んだのも、その一つだ。そして各地で森林を失っていった。

が、私が驚いたのは、中東ヨルダンのペトラだ。ここは映画「インディ・ジョーンズ」の舞台としても使われて有名になったが、細い渓谷の奥に岩に掘られた神殿のある古代都市遺跡である。まさに砂漠の中に眠る不思議な都市として知られるが、実はこの都市も、かつて森の中にあったというのだ。今でこそ、砂漠の奥に隠れた王国があったイメージだが、この遺跡に人が集っていた時代は、森に囲まれた都市だったのだ。

ほかにもエジプト、メソポタミア文明の各都市も、古代ギリシャもローマも、森に囲まれた都市国家群だった。インドや中国の各王朝も、北アメリカの大平原も、イースター島も、かつては森林に覆われていたらしい。人類の生きる場所はほとんどが森の中だったのだ。そして人が集まり都市をつくると、森は消えていった。これは日本でも当てはまるかもしれない。飛鳥時代は都をよく移したし、奈良時代以降も、周辺から遠くへと森林破壊をし続けた。

おもしれえ。人が住む土地は、常に森だった。そして森に人が集まると森を破壊してなくしてしまうのだとしたら。そこでその都市を捨てて別の森のある場所に移っていくわけだ。やがて都市を移動させずに遠くの森から資源を収奪して運んで来るケースも出てくる。が、それも森を破壊しないと生存できない人類の性かもしれない。

それは今も続いているが、そろそろ移る森が地球上になくなってきた。ようやく必死にSDGsなんていう「持続可能な開発目標」を訴え始めたが、かなり無理がある。クロマニヨン人数万年の進化の歴史に森林破壊が刻まれているとしたら。……止まらないかもしれない。

そうか、チンパンジー、ボノボに続く第三のチンパンジー(人類)の特徴は、森のない草原に出たことだと言われるが、それゆえ森を破壊し続けるのかもしれないなあ。

 

 

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コメント

いつもブログを拝見させていただいております。
ここで書かれていることが私の考えていたことに近かったので興味を持たせていただきました。
この問題は非常に深刻で為すすべもないのかと感じております。
この本の表紙に書かれているように「若い世代」に託すしかないのでしょうか?
(中身を読んでないので真意は分かりませんが…)
スウェーデンの若者が新たな希望となりえるのでしょうか?
などと(無責任に)考えながら、一度この本を読んでみたいと思います。

ダイアモンド博士の著作は、いずれも分厚く、しかも上下2巻に分かれるなど、手にとる際は勇気が要りますが、読み始めると夢中になって読んでしまいます。その中で、「第3のチンパンジーは」は比較的コンパクト(といっても分厚い)にエッセンスがまとめられていると思います。また、これは古い本を数年前に改訂したもののようですが、それゆえ最新情報が盛り込まれています。
ぜひ、一読を。

くだらないコメントにご返答いただき、ありがとうございました。
分厚い本を読むのが苦手な私にとって、一冊なのは救いかなと思い、早速アマゾンでポチりました。(^^;
読むのも遅いので読了が何時になるか分かりませんが、勉強させていただきたいと思います。

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