現場主義を壊す「デジタルハンター」の世界
NHK・BS1で「デジタルハンター」という番組を見た。これ、すごい。
ウェブで公開されている情報、とくに画像・動画なとを元に真相に迫る新たなジャーナリズムの手法だ。これをオープンソース・インベスティゲーション(公開情報調査)と呼ぶ。違法ではなく、公開されている情報から、政府や犯罪者が隠している情報を割り出していくのだ。
なにしろ、アフリカのどこともわからぬ殺戮現場の動画、それも数分のものから、映り込んでいる背景の地形、建物や木の大きさ……などを元に衛星画像と突き合わせて場所を割り出す。そして人の影から年月まで読み取る。
ウクライナで撃墜されたマレーシア航空機を誰が撃ったのかも、各地のSNSを精査して、ミサイルを積んだトラックを発見し、その走ったルートと行きと帰りは積んでいるミサイルが減っていることまで見つける。明らかにロシア軍の犯行だと証明したのだ。
ほかにも中国のウイグル族の強制収容所を見つけ出してそこで何が行われているか探り出したり、武漢における新型コロナ肺炎の蔓延具合をいち早く見つけ出したり、おそるべき調査能力だ。それを、すべて小さなパソコンだけで行ってしまうデジタル世界の新たなジャーナリストが生まれていることを知って戦慄した。彼らの多くは本来はゲーマーだったりするのだが、今や世界のメディアが競ってリクルートしているそうだ。BBCもワシントンポストも、みんな彼らを雇っている。
しかし、この時代、どんな閉鎖した国でも、ネットに上げられている情報があるものだ。先のミサイルも、市民が何気なくネットに上げた映像を拾いだしたのだから。
ただ私が思ったのは、これはデジタルの話ではない、ということだ。ようは情報を読み取る能力が必要なのだ。
対極にあるジャーナリズムの「現場主義」というのを、私はあまり信じていない。もちろん現場に行くのもよいが、そこで見聞きしたことをいかに分析する能力があるかが問われている。見たことが真実と思い込むのは浅はかだ。それなら幽霊を見た、UFOを見た、だから霊界は存在する、宇宙人がいる、と主張するようなものである。目にした現象がなぜ起きたのか分析しなけりゃジャーナリズムにならない。また被取材者の言い分を丸飲みするのも危険だろう。それこそ広報・宣伝に利用される。
現場百編、というのはもう古いのかもしれない。現場に足を運ぶのは一度で良いから、いかに情報を読み解くかが問われる。
私はとてもデジタル世界を精査する能力はないが、負けずにコツコツとアナログも含めた公開情報を分析して隠された事実を掘り出したい。(ちょっと武者震い)
ちなみに、この番組、明日の深夜にも再放送するみたい。BS1午後11時。
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