森の癒しには超高周波が必要?
拙著『森を歩く 森林セラピーへのいざない』(角川SSC新書)という本を出版した(2009年)のだが、そこで森林セラピーを紹介した。
当時の私は、森林療法にハマっていたのだが、それが森林セラピーになった途端にうさん臭くなったので、森林セラピーに関しては批判ばかりしていた。だから、この本の執筆に迷った記憶がある。
ま、そこは版元と妥協しつつ(^^;)書き上げたのだが、その中で森を歩くことの癒し効果をもたらす物質や行為を科学的にいかに説明するか悩んだ。
森林セラピー研究会(当時)では、大学生を使った実験で、森歩きの前後で有為にストレスホルモンが減少するなどの結果を示して「これがエビデンス」と主張していた。しかし、私には納得できないというか怪しげに感じていたのだ。統計的手法によるには検体が少なすぎる(10人、12人程度)し、統計的有意差以前に、肝心の癒しをもたらす原因を示せていないからである。もちろん完全な証拠を出すのは無理でも、それなりの仮説でもいいから、森の何が人間のどこにどんな影響を与えるのか説明できないと信頼性が低い。当時の「科学者」の説明は、“人類の進化の記憶”とか、“マイナスイオン”まで持ち出して、まるでスピリチュアルな世界に陥っている。
そこで、文明科学研究所の大橋力氏の研究で、熱帯雨林には超高周波音(100ヘルツ以上)が満ちているという事例を引っ張りだして、森に響く聞こえない超高周波音の影響も考えられるのではないかという仮説を紹介した。
さて、長々と昔話を記したが、実は昨夜Eテレで「又吉直樹のヘウレーカ」という番組を見た。テーマは「皮膚はすべて知っている?」である。
皮膚が触覚を持つのは当たり前だが、実は光も感じれば、嗅覚や味覚、そして聴覚もあることを紹介していた。その聴覚の中には、超高周波も入っているのである。耳では感じ取れない高周波を皮膚は感じることができること。そして、そのことで脳深部を活性化させ、免疫機能の増加やストレスホルモンの減少を引き起こすことを実験で証明したというのだ。さらに超高周波音が混じった音楽(ハイレゾですな)は感動が増すことも示している。
10年以上前に考えたことだが、仮説が少しずつ前へ進んだ気がする(^o^)。
しかし、この森の超高周波の正体は何か。おそらく無数の昆虫など生物体の出す音、鳴き声ではないかと言われている。風ではこんなに超高周波は出ない。
ということは、「癒される森」では、多くの生命体が棲んでいなければならない。熱帯雨林ではなく、日本の温帯林ではどうだろうか。そして人工林では……残念ながら生物多様性はぐっと落ちるだろう。これまで森の癒しの正体を、草木の出すフィトンチッドとか、木洩れ光の視覚効果とか、単なる運動療法じゃないの? とか、いろいろ言われてきたのだが、虫の鳴き声となると、一気に見方を変えなくてはならない。その森に虫がどれだけ棲息するか? 超高周波音は響いているか? これが大切になる。
森を利用した癒しとか、教育とか、療養効果とか、期待したいことはたくさんあるが、それを科学的に説明するのは難しくもどかしい。
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