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森と林業の本

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2020/06/09

巨木が枯れると何が起こるか

ナショナルジオグラフィック誌に「世界で巨木が死んでいる、115年間で原生林の3分の1超が消失」という記事が出ていた。元ネタは、5月29日付けの科学誌「サイエンス」に発表された論文とのこと。

これによると、現在は、世界中の森で木々が枯死するペースは年々速くなっており、特に大きい木、古い木ほどその傾向が著しいというのだ。

まず伐採ではなく、枯死であることに留意。直接的にはキクイムシなどの虫害や病害らしいが、樹木が枯死する間接的原因に、気温の上昇と化石燃料による二酸化炭素濃度の増加を挙げている。また森林開発によって起こる干ばつや、壊滅的な森林火災の発生も挙げている。

巨木とは、ようするに老木であり高齢樹だから、枯れるのは仕方ない。むしろ「老害」をなくすためにもある程度は枯れてなくなる方が若木が増えるし、森の生態系にダイナミズムを取り戻せるのではないか……と思っていたのだが、どうもそれほど前向きには考えられないらしい。

たとえば森林火災には、森林の更新を進め次世代の木々の芽生えを誘発する役割が知られている。また環境を変えることで生物多様性を増したりもする。しかし、最近の森林火災は規模が大きくて次世代になるべき種子まで焼いてしまい、更新できない可能性があるらしい。森林火災が、森の成長を阻害するようになってしまった。
仮に森林が若返りできても、生物多様性が損なわれ、重要な植物や動物の生息地が失われてしまうという。

さらに炭素を貯蔵する能力も低下してしまう。林野庁は森林の伐採(開発)を進める理由として「森林の若返り」をよく上げる。だが、この記事によると、若返りさせれば、炭素の固定に重大な影響を与えるようだ。なぜなら、地上の炭素の多くは古い巨木が蓄えているからである。たとえば熱帯雨林の樹木の質量の大部分は、大きさの上位1%の巨木によるものだそうだ。「1本の巨木が枯れると、多くの小さな木が生えますが、こうした木が蓄える炭素量の合計は、はるかに少なくなってしまうのです」という言葉もある。

言われてみれば、そのとおりだ。若い木が再び巨木に育つまでは数百年かかる、それも長期間生きて大きくなるのは何百本に1本だけ……のだから、どう見ても炭素の貯蔵量は減る。カーボンオフセットの怪しさを説明するのにこの視点は使えるかも。

では、なぜ枯死が増えているのか。それは地球温暖化などの気象変動で、樹木の抵抗力が落ちているためと考えられる。あまりに急速度の変化で、今の森には適応できなくなりつつあるというのだ。とくに大木は老木だから (゚o゚;) 。

さらにさらに、一般には二酸化炭素の濃度が高くなると樹木はよく成長すると考えている。しかし地球が温暖化すると、大気は植物や動物から水分を吸い上げようとし、対して樹木は葉を落としたり気孔を閉じたりして水分を取られまいとする。結果的にどちらも二酸化炭素の吸収を抑えてしまうのだそう。

知らなかった。地球温暖化の見方にもいろいろある。

森林には、人が読み切れない複雑な要素の相互作用があり、そのうちの一つの要素が変わると、全体が連鎖的に変化する可能性がある。そして生き物間のバランスが崩れたら、大量絶滅も有り得る。

それもいつしか落ち着いてバランスを取り直すのだろうが、それまで何百年何千年かかることやら。それを人間は、じっと見守ることができるだろうか。

 

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コメント

人間の考えが及ぶ範囲の狭さを改めて考えさせられます。
全てはバランスの基に成り立っていて、急激な変化に対してそれを戻そうとする能力を越えてしまったとき、後戻りが出来ない状況に陥ってしまうのだと思います。
しかしそのバランスは色んなところで連動していて、それをコントロールすることなど到底出来ないでしょう。
一度崩れてしまった気候や生態系を取り戻すのに数百万年という気の遠くなりそうな時間がかかるという記事を読んだことがあります。それまで人間は待てるのでしょうか?
いや、時間をかければ本当に元に戻ることが出来るのでしょうか?

人間がコントロールしようと思っても、あまりに複雑すぎて無理でしょうね。人間が合わせるしかないのでは。もっとも、合わせることが人間の生存を保証するわけではありませんが

「合わせる」ということには大きな犠牲を伴うでしょう。
近い将来その選択を迫られることになりそうですが、決断する頃にはもう手遅れということにならなければ良いのですが。

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