森林・林業白書~特用林産物・漆で考えた
令和元年度森林・林業白書が発表された。
私も一応ざっと目を通しているのだが、あんまり興味をそそる項目はなく……相変わらずの林業事情と林業政策。
そこで、つい目を向けたのは、特用林産物の項目。木材一辺倒の林業の中では、あまり注目されないが、産出額で言えば全体の半分を締めているのだから、特用という言葉が間違っているかもしれない。具体的には、食用のきのこ類、樹実類、山菜類、漆や木蝋など工芸品の原材料、竹材、桐材、木炭など……である。まあ、その中でも売上の大半、8割はきのこ類だ。
残りの中で比較的力を入れているのは、漆である。
こんなグラフを見ると、生産量が減り続けてきたものの、ここ数年は少しだけ伸びている。が、面白いのは量(1・8トン)より自給率で、急回復を見せている。とはいえ、5%なのであるが。ただ、1980年前半は6トン以上生産していたのに、自給率は1%程度。
ようするに漆そのものの需要が激減したのだろう。何が減ったのかね。文化財は増えこそすれ減らないだろうから、民需がなくなったのか。
そして国宝・重要文化財用をすべて国産にするには2・2トン必要だそうだから、最近になって増産が叫ばれているのだ。
ここで、ふと思ったこと。
現在の漆は、ウルシノキを「殺し掻き」している。樹齢10数年程度のウルシノキをひと夏、漆を掻いたあと木を伐採する方法だ。中国が、毎年漆掻きをする「養生掻き」をするのと比べて、国産漆はこの方法だから質がよい……といった言い方をされている。が、それは嘘だろう。理由はその年の採取量を増やすために行われたのだ。つまり先のことを考えなかった。
だいたい日本も昔は、養生掻きをしていたのだ。1度採取したら数年休ませて、樹勢が回復したらまた掻く。たしか明治時代に目先の生産量を増やすため殺し掻きに変えたんじゃなかったか。しかし、ウルシノキを植えて10年~15年育てて、たった1年漆液を採取したら伐り捨てるなんてもったいない。仮に3年に1度の養生掻きにすれば、ものすごく生産効率を上げられるように思える。
それにウルシの実からは、蝋をとることができる。江戸時代は、この実から蝋をとるための実の収穫もやっていた。木蝋はハゼの実などから取るが、ウルシの実からも取れたのだ。これは和ろうそくの材料として重宝した。この実の収穫のためにも、養生掻きだった。現在の木蝋の需要はどれほどあるのかわからないが、これも特用林産物なんだから。
現在なら、ウルシの花で養蜂をやることも考えられる。意外とウルシの蜜はよろしい。by 養蜂ジャーナリスト
そして太くなったウルシノキの材も使い道を考えたい。
ある意味、漆産業は林業の縮図だな。木材の生産も、目先の量の増加に走って持続性と長期展望を失い、木材以外の森林の多様な資源利用を捨ててしまった。結果、行き詰まる。
とまあ、白書を見て、ここまで妄想を膨らませたのである。
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