人新世はいつ始まったか?
近頃、流行りの言葉が「人新世」。「アントロポセン」の和訳として、地質年代の一つとして提唱されている。
地質を調べて、変化が現れると時代区分をする。もっとも大きなのは古生代、中生代、新生代だろう。その中でも分けると中生代は三畳紀、ジュラ紀、白亜紀だし、新生代も第三紀、第四紀に分ける。その中でさらに細かく分けると、第四紀は更新世、完新世となる。
完新世は、氷期が終り地球が温暖化してきて海面が上がり、森林も増えた時代だ。沖積世という言葉でも示される。
が、もはや完新世は終わったのではないか、次が人新世だ~と唱えられているのだ。ようするに、人間の活動が地球に地質学的な影響を与えているからだ。それを人新世と名付けたのである。
では、それはいつから? 実は、これが議論になっている。
完新世が始まったのが1万1700年前とされている。一方で人間が地質に影響を与えた時期を、農業が始まったことにあるとしたら、1万2000年以上前になってしまい、完新世が消えてしまう。ちなみに世界で最初に農業が行われたのはニューギニア高地だ。そこでは灌漑も始めていたから、たしかに地質に影響を与えていたのだろう。
一方で「パイロセン(火新世)」という言葉も登場している。「火の歴史家」とも呼ばれるスティーヴン・パインが提唱していて、人類が火を使うことで時代が変わったと見立てる。火を使いだした最初はホモ・エレクトゥス、北京原人だとしたら70万年ぐらい前になってしまうが、さすがに遡り過ぎか。頻繁に現人類が火を広く使いだしたのは1~2万年前だろうか。
地域的なずれもある。たとえば中近東なら5000年前後に農業が広範囲に行われ、都市国家も生まれて地質に影響を与えだしただろう。中国の黄河・揚子江周辺も同じぐらい。地中海沿岸なら3000年前ぐらいか。日本なら弥生時代なら2000年前程度。
より世界的な視点で見ると、産業革命か。欧米に広がったのは西暦1800年前後ぐらいだから、たかだか200年前になる。
だが、最近の学説では1950~60年代を開始年代だという意見も強まっているという。ほんの50年前! 我々が生きている年代に地質年代が入れ代わったのか。大量生産・工業時代が始まった時代を起点とするのだ。
結局、何を基準とするかによって変わるわけだが、いっそ森林の変化を基準にしてみたらどうか。
森林伐採が加速すれは地質を変える。しかも伐採跡地は、たいてい農業や住居建設に使われ、都市が築かれる。地質の変化が顕著になるだろう。やがて人工林づくりも始まって、いよいよ植生を変えることで地質も変える。
しかし森林が亡くなるのは伐採だけではなくて、火入れの方が早くて大規模かもしれない。日本の場合、実際に森林が草原になって、黒ボク土が生まれたのは焼畑や野焼きのせいだとされている。となると、5000年くらい前に縄文時代中期になる。
さらに大規模に植生を変えた時代は、奈良時代(ざっと1200~1300年前)か。神社仏閣、宮殿を建てるために木を伐りすぎた。
……まあ、いろいろ見立ててみて、人新世とは何かと考えてみるのも面白いかもしれないなあ。
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