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森と林業の本

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2020/07/08

驚異の数字が並ぶ宮脇方式の植樹

ヨーロッパで「宮脇方式」の植樹法が急速に拡大……という記事が流れてきた。

またも宮脇昭氏か。しかし、何が起こっているのか。そこで冒頭だけ引用すると……

世界的に森林が減少する現状にゲームチェンジャーとして注目を集めているのが、日本の植物学者である宮脇昭氏の研究に基づいた「ミニ森林」だ。宮脇昭氏はその土地本来の樹木に、さまざまな種類の植物を混ぜて植樹を行い、森をつくる「混植・密植型植樹」を提唱。これまでアジア各地に1700以上の森を作ってきた人物だ。

学校の校庭や道路沿いに設置されることが多い「宮脇方式」の森は、従来の方法で植林を行った場合に比べ、10倍の速さで成長、30倍の密度と100倍の生物多様性を持つという。また、昨年発表された研究によれば、自然林は単一種の植物で構成された植林地に比べると、40倍の二酸化炭素を吸収できると推定されている。

なんだ、この怪しげな記事は(笑)。

ただ注目したのは、ここで取り上げているのはお得意の「潜在自然植生」の森ではなく、「混植・密植型植樹」である点。

ここで少し触れておくと、私が最初に宮脇氏に興味を持ったのは、新聞記事だったかなんだかで「植樹は、同じ樹種ばかりを苗にして植えるのではなく、森林土壌をばらまくだけでよい」という主張だったと思う。ようするに森林土壌に残る埋没種子がそれで発芽して森になるという主張で、すでに各地で実験して成功した、というものだった。もう30年近く前ではないか。当時、新聞記事を切り取った記憶があるので、探せばどこからか出てくるかもしれない。

ともあれ、私はわりと好感を持った。同一樹種ばかり植える植林に疑問を持っていたからだし、土壌を撒くだけなら簡単で済む。ただ、草ばかり映えるんじゃないかとか、埋没種子がどれだけ含まれるかは場所によるだろうなあ、という感想はあった。

しかしその植樹法と、この記事にある「混植・密植型植樹」が同じかどうかわからないし、混植そのものは彼の専売特許ではなく、いろいろな研究者から提唱されている。珍しくないだろう。宮脇方式というほどのことか。

ちなみに私の手元にある「宮脇本」によると、いきなり照葉樹を植えるのではなく、先に陽樹を植えると書いてある。あれ、今とやっていることが違うね。

それにしても、この数字には怪しげな臭いがプンプンする。アジア各地に1700? 10倍の速度で成長、30倍の密度、100倍の生物多様性……どこからこんな数字が出てくるのか。10倍の速度で育つ森なんてあったら、早生樹植林を目論んでいる林野庁が涙を流して喜ぶだろう。30倍の密度かあったらブッシュじゃないの? 100倍の生物多様性って……1種類だけの植林と比べたら100種類の樹種が生えてきたというのだろうか。それとも、この森に外から昆虫などが集まってくるのか? 日本なら多数の草木、昆虫がいるが、極端に生物種数が少ないヨーロッパで可能か(樹木をすべて集めても100種ないと思うよ)。そして40倍の二酸化炭素吸収と来たら、もはやデタラメを通り越して詐欺的言説だろう。
何と何を比べたのか知らないが、こんな数字が出てくる根拠を知りたい。思いつきとか、キリがいい数字を並べただけか。数字を大切に扱わない人物は学者に向いていない。

そもそも、この記事の筆者は何を元ネタにしているのか。誰かを取材したのか、ヨーロッパの現場を取材したのか、それを記した現地記事があるのか。ぜひ示してほしいものだ。とくにヨーロッパで、この方式が広がっているというのだから、具体的なことを知りたい。

※追記。どうも宮脇関連組織のHPの記事を丸写ししたようである。

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コメント

成長と一言で行っても樹高成長と直径成長があり、密植すれば樹高成長はたしかに良くなるかもしれません。ただし直径成長は抑えられるはずです。(俗に言う間伐遅れで形状比が高い森林と同じ状態になる)。密度にしろ生物多様性にしろ、何かしらの根拠はあっての数字なのかもしれませんが、この情報量だけでは良いのか悪いのかさえ判断できませんね...

その通りです。だから、この記事に出ている数字はいい加減です。
おそらく何の根拠もなく、景気づけに10倍だ30倍だ100倍だ、と記したんではないかと想像しています。

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