絶望!『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』
出版されたときから気になっていた。だが、すぐに買うのはためらっていて、ああだ、こうだと考えた末の購入。
『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(樋口耕太郎著・光文社新書)
一読、思ったね。これは『絶望の沖縄』だ。
沖縄が抱える問題点は、ともすれば戦争体験と米軍基地支配に収斂されがちだ。しかし、それでは説明のつかない点がいっぱいある。それを実に切れ味鋭く、そして重苦しく切り開いた。そこに明るい展望がない。林業と同じ、それ以上の絶望に包まれている。
たとえば、自殺率、殺人・強盗・レイプ……などの重犯罪、DV、幼児虐待、いじめ、依存症、飲酒事故、不登校……などの率は、他都道府県を圧倒するほど高いのだそうだ。これらの多くは、貧困から生じている。その理由を解きあかそうとしている。
著者は盛岡出身ながら、野村證券から沖縄のホテルの再建をなし遂げて、現在は沖縄の大学准教授。そして16年間沖縄に住んできた。そこでさまざまな出来事を経験したのだが、この謎の解明のために取った手段がすごい。日曜日を除く毎晩、那覇市の繁華街のバー?に通いつめ、ひたすら客と会話しているというのだ。ちなみに彼は酒を飲まない。約3万人、2万時間の話を聞いたという。
この手法そのものが、超フィールドワークである。学問でも取材でも、このレベルに達した人はいるのだろうか。
そして得た結論は……これは本書を読んでいただくのが一番なのだが、一言で言えば、沖縄人の自己肯定感の低さだという。そして「できるものいじめ」の横行する社会なのだ。つまり出る杭は打たれる……をもっと過激に、きつくした状態だ。「なんくるないさ」は、実はあきらめの言葉でもある。
もっとも出る杭のレベルは低い。車のクラクションを鳴らす、暗い教室で最初に電灯を付ける、仲間うちで先に意見をいう……そんなレベルからリーダーシップを取ることが「お前は出すぎた」と認定されてしまうらしい。そして「変わること」への拒否感が強い。新しいことに取り組むと嫌われるのだ。それらが若者の創造性を奪い、労働生産性を落としていく。
南国のイメージががらがら崩れる。外目とは違った見えない緊縛の世界。「のんびり自然の中で働く林業」が嘘なのと同じだ。
そして「給料を上げて」「非正規から正社員に」するというと断るそうだ。給与が上がっただけで、仲間外れにされてしまうから。それゆえ低賃金が続き、貧困はなくならない。
それは戦争体験でも米軍基地でもなく、もしかしたら琉球王国時代の身分制度や監視社会の残滓かもしれない。また同調圧力なども日本社会全体に通じることだろう。ある意味、日本社会のうすら黒い部分を濃縮した地域なのかもしれない。本書にも、「沖縄問題とは、濃縮された日本問題である」と書かれてある。
それにしても……基地の金ではなく、莫大な沖縄振興予算という名の補助金が社会をゆがめ、改革を拒んでしまう状況などは、そのまま林業界にも当てはまる。じゃぶじゃぶと注ぎ込まれる上から降ってくるお金が、いかに関係者の精神をゆがめ、社会に害毒をぶちまけるか。目先の問題を金で解決しても、それは対症療法であって根治しない。
ああ、なんだか「日本の林業は、日本社会の縮図」と書いた『絶望の林業』と相似形だ。。。
そして、この本にも「希望への処方箋」がいくつか描かれてある。その一つは教育であるし、外からの圧力(この場合は本土資本や人材も含む)である。これは、林業界にも通じるだろう。
沖縄問題と林業問題の驚くべき共通点があるなんて……。
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