日本も「退耕還林」の時代?
人口減少時代の農山村の土地利用を考える農林水産省の有識者検討会が開かれているようだ。第3回会合では耕作放棄地に植林する森林化をめぐって議論されたという。
いわゆる「退耕還林」だろう。中国で広まった耕地を森にもどす政策だ。産経新聞は「中国の真似」になるこの言葉は登場しないが(笑)。
もっとも中国は砂漠化防止の観点もあるが、日本では何を心配しているのだろう。
是非の議論よりも何も、すでに耕作放棄地への植林は随分進んでいる。とくに山間の棚田では、住民が去る前に木を植えておくのが普通だ。おそらく木は掘っておいても育つし、太くなったら金になるだろう……という発想があったのだろう。今や金どころか伐採自体が難しい(棚田の石垣があると林業機械はなかなか使いにくい)だろうが。
もっともスギやヒノキ木の植林をするとは限らず、本当に放置して竹が繁っている場合や、雑木が石垣を崩している現場もよく見る。私自身は、山奥の道のない山林を進んでいて、急に石垣が現れると、なんだか古代遺跡に出会ったようで興奮するのだが。
検討会では、ケヤキやセンダンの植林例が出たようだが、それだって植えた後は放置では使い物にならないと思う。やるなら、林業として熱心に経営しないと、結果的に数十年後に使い物にならない木々ばかりになってしまいかねない。野生動物の巣となってしまうかもしれない。
一方で人口減社会では、完全放置しかないのではないか。それなら自然林にもどすことだ。
より面倒なのは、たいていの土地の地目が農地(もしくは宅地)のままであること。これでは農地法に引っかかるとか、林業補助金も使えないだろうから、地目転換も急がれる。その手間の簡略化は国ならではの法整備をしてほしいところ。そろそろ「地目」という考え方自体を一新するか、地目そのものを破棄できないか。農林の区別をなくして「雑地」というか「自然地」といった指定にしてくれたら、利用の幅も広がる。ビオトープ的にしてもよいし、放牧を試みるのもいいように思う。して一元的に自治体が預かる必要も出てくるだろう。それこそ森林経営管理法みたいに、自治体が預かり「意欲のある」業者に委託する。そうすれば目標を定めて土地利用ができるのではないか。
たとえば山口県では山口型放牧と名付けて、耕作放棄された棚田などにウシを放牧している。草を食べてきれいにしてくれるし、大型動物(ウシ)がいることで野生動物が近づきにくくなる。棚田の石垣が柵代わりになるから、逃げない……。ウシは、生育すれば肉牛として肥育に回してもよいし、繁殖用にもなるのではないか。ウシは次々と棚田を渡り歩いてもらうといい。
ウシの糞が有機肥料になって土地が肥えたら、有機農法で耕作を再開することも考えられる。
農と林と畜産をもっと有機的につないだアグロフォレストリーにする。これぐらいの壮大な構図を描いてほしいなあ。
« 奈良県フォレスターの募集記事 | トップページ | カッパビエ?遠野の新妖怪 »
「地域・田舎暮らし」カテゴリの記事
- 道の駅と富雄丸山古墳(2024.12.05)
- 熊野古道の雲海の村(2024.12.03)
- 道の駅「なら歴史芸術文化村」(2024.11.30)
- 流行る田舎のパン屋の秘密(2024.07.11)
- “秘境”よりの帰還(2024.07.10)
昔、北陸白山麓のとある樹齢何十年の植林地で、ここは元は焼畑だったと地元の方に教えて貰ったことがありました。これも退耕還林でしょうか。
田中様のほうが詳しいと思いますが白山麓は出作りと言う季節移動を伴う焼畑耕作が盛んだったそうで、それがS30年代高度経済成長を迎え、焼畑なんて非効率な耕作を続ける者もいないとなり、しかし放置すれば無価値なヤブになると、植林して資産を残そうとなったそうです。
土地は村有か集落所有で、そこに造林公社が植林して、大きくなったら伐採販売して収益を山分け、という契約だったそうです。しかしいざ大きくなってみると今や伐採しても販売収益の見込みが立たなくなり、処置に困って放置されているようでした。
投稿: ジャーマンスープレックス | 2020/08/28 23:51
白山も焼き畑が多かった土地ですよね。
もともと育成林業は、焼き畑からスタートしたと言われていますから、その原点なのだろうと思います。そして典型的なアグロフォレストターだと。
ただ、今は森から再び畑へという循環が途切れてしまいました。ちょっと残念です。
投稿: 田中淳夫 | 2020/08/31 09:28