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森と林業と田舎の本

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2020/09/30

林野庁予算案から見る獣害対策

来年度(令和3年度)の林野庁予算概算要求の概要が発表されている。

詳しいことはすべての項目はゆっくり読めば、そしてその後に国会を通るかどうかも含めて見たらよいのだが、『獣害列島』(イースト新書)発行目前の私が興味を持つのは、やはり「シカ等による森林被害緊急対策事業」だ。

シカ被害の甚大化を防止するため、林業関係者によるシカの捕獲効率向上対策を講じるとともに、捕獲や生息状況把握の省力化、効率化など、効果的なシカ被害対策を実施していく上で特に有効なICT等を活用した新たな捕獲技術等の開発・実証を実施します。また、シカ被害が深刻な奥地天然林等において、国土保全のためのシカ捕獲事業を実施します。

その内容を抜き出すと、

1.シカ捕獲効率向上対策事業 30(-)百万円
○ 林業関係者によるシカの捕獲効率向上のために、狩猟熟練者の技能や最新の捕獲技術等の活用による捕獲技術の導入を図ります。
2.ノウサギ被害対策検討事業 30(-)百万円
○ 顕在化しつつあるノウサギ食害に対する効果的・効率的な防御や捕獲等の対策手法の検討を実施します。
3. シカ被害対策技術実証事業 40(20)百万円
○ 効果的なシカ被害対策を実施していく上で特に有効なICT等を活用した新たな捕獲技術等の開発・実証を実施します。
4.国土保全のためのシカ捕獲事業 104(84)百万円
○ 森林の持つ国土保全機能の維持増進を図るため、国有林野内の奥地天然林等においてシカの行動把握調査等に基づく効率的なシカ捕獲を実施します。

ここで気になるのは、シカに関する対策事業の内容が、ほぼすべて「捕獲」にあること。林業関係者が捕獲するための技術の導入とか、ICT利用とか、シカの行動把握調査まで捕獲のためとする。

これって林野庁の予算なんだが……。獣害対策がどうあるべきかというそもそも論は置いておくにしても、捕獲で林業被害は防げるのか。たとえば農作物を食べに来るシカに対する緊急対策だったら、捕獲して駆除するのがてっとり早いというのはわかる。しかし林業だよ?
林業における獣害とは、まず植林したばかりの時期に苗木を食べられてしまうケースがある。だが、より深刻なのは収穫間近の樹齢50年60年ものの木の幹の樹皮を剥がし、枯らしてしまうことだ。つまり、人工林すべてが対象となる。

広大な林野のシカによる被害を防ぐためにシカを捕獲……というより捕殺することなんてできるのか? そして効果はあるのか? 

捕獲には銃猟と罠猟があるが、銃による捕殺は、ハンターが山野を歩き回らないと数を稼げない。罠も、仕掛けた後にほぼ毎日見回らないとかかった獲物を処分できない。そんな人手があるのか。

しかも林業被害を防ぐ猟自体が非常に困難だと思われる。農地なら、かろうじて農地の周辺にたむろするシカを狙う方法が考えられるが、広大な面積のある人工林の周辺でどうやって待ち伏せするのか。効率は非常に悪い。しかも野生動物の場合、生息数を1割減らしたら被害も1割減る……というほど単純じゃない。これは農地も含めてだが、いくら害獣を駆除しても被害は減らないことは、これまでの調査や統計で出ている。たとえば環境省の対策事業でも、ある地域の生息推定数の5割がた捕獲したのに、植生に対する効果はまだはっきりと現れないと述べられている。

結局、被害を出す個体(人工林を狙うシカ)かどうか関係なく、地域全体のシカを駆除しなければならないだろう。それこそ被害を出ないようにするには生息するシカの8割9割がた駆除しなければならないのではないか。しかし、それは不可能だ。

なんか、予算要求の時点から前途多難というか、その予算、無駄にならね? と思ってしまうのだ。

むしろ必要なのは、「防護」だろう。しっかり防護柵を築くことの方が有効だと思う。ただし、これまでのように広い林地を大きく囲む柵は、一カ所破られたら、中に入ったシカの食い放題になる。現在提案されているのは、小さな区画をいっぱい築く柵の張り方だ。パッチディヘンスと呼ばれるが、柵内が狭いとシカは入りにくくなることが確かめられている。飛び越えようにも狭すぎて難しくなる。また柵や網が二重三重にかかっていると、シカも警戒する。その林地そのものが迷路のようになってしまうから余計に警戒するのかもしれない。また苗木なら1本1本ツリーシェルターを被せる方法が有効だ。幹に網で包むのもアリだろう。
ただし、この手の方策には手間も費用もかかる。本来は、林野庁が低コストで効果的な防護をするか研究し提案してほしいのだけど。

かろうじてノウサギ対策には、「効率的な防御」という文言が入っている。ノウサギを捕獲するのは簡単じゃないからだろう。しかし、ノウサギこそ、柵のすき間から侵入しやすいから防護は難しいのだが……。ただ狙われるのは苗木・若木だけだ。

ちなみに、そうした獣害対策の考え方や実験は、いろいろな研究青果が公表されている。林野庁の方々も勉強してください。

 

獣害列島 増えすぎた日本の野生動物』は10日発売だが、先んじて見本が届いた。(サイドバーにもリンクをアップ)

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獣害の現状とともに、森林に対する被害についても記しているので、ご一読を(^_^) 。

 

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コメント

獣害対策として捕獲が必須の手段であることは間違いないと思います。守るだけでは根本的な解決にはならないので。ただ闇雲に捕獲にお金をけるのはどうなのか、という考えには同意いたします。林業に限って言えばシカが多い状況で皆伐・再造林をすすめるから柵にせよ単木ネットにせよお金がかかるのです…高齢林に持っていき、最終的に収穫できる3~500本/ha程度を樹皮ガードで守る方針なら少しは金額を抑えられるはずです。人工林の若返りが必要なのもある程度事実なので皆伐・再造林をやめよとはい言いませんが、シカが多いこの状況で推進するべきこととは思えません。林野庁にはそうした根本的なことから獣害対策を検討してもらいたいです。

捕獲しても、繁殖率が15%とか言われているシカには追いつかないですよ。
そして対策は金がかかり、コストが生産額を超えかねないのが現状です。

本当は、シカが食いたくなくなるマズい苗を開発してほしい(笑)。

単木樹皮ガード推進に、公費を集中し、鹿駆除捕獲への 公費の投入を 廃止します。
鹿の食樹皮を利用しての 間伐・除伐の推進ですね。

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