餌が足りないのに森のシカが生息できる理由
森林総研のHPを見ていたら、こんな研究発表が目に止まった。
森のシカは、夏は落ち葉を、冬は嫌いな植物を食べて生きぬく シカ糞の遺伝情報から、シカの食べる植物の季節変化を解明
一瞬、「夏に落ち葉を食うのか?」と驚いた。シカの落ち葉食いは冬だと思っていたから。概要には、このように説明している。
ニホンジカが全国的に増加するに伴って森林の植生が破壊され、生物多様性の衰退、土壌侵食など様々な影響が報告されています。シカの増加した森林では、林床に生える、シカの好む植物は食べられてほとんど無くなっていますが、シカは、そうなっても森林内で生息することが可能となっています。このようにシカの餌資源が乏しいにも関わらず、なぜシカがこうした森林内で生息できるのかは長らく謎に包まれていました。本研究ではシカ糞を季節別に集めて、それらに含まれる植物のDNAを調べ、シカが食べている植物の種類を明らかにしました。その結果、シカは冬から春にかけて、シカが好まない常緑樹 (スギなど) や草本植物を食べる割合が増加している一方で、夏から秋には、シカが好む落葉広葉樹 (落枝落葉など) を食べていることが分かりました。このように季節によって食物構成を変化させることで、一見して餌がほとんどない森林でもシカが生き延びていることが分かりました。
通常の生態学では、シカが増えすぎたら餌が足りなくなり、結局自滅して生息数は減る(だからオオカミを放してシカを適度に減らしたらシカも適正数に落ち着く、という発想が生まれるのだろう)、と考えられる。ところが、現実には全然減らないのだ。シカは生息数を減らさず森に生息し続けている。その謎解きを「夏秋は落葉広葉樹の落ち葉を食っている」からというのは、夏の落ち葉というより秋の落葉ではないか。夏は落ち葉というより、何らかの形でちぎれた葉や折れた枝だろうか。ついでに言えば、冬はスギなど針葉樹の葉や樹皮を食べるから獣害が発生する?
正直、この研究内容にそんなに新味は感じない。だって奈良のシカを見ていると、よく見かける風景だから。夏でも風で落ちた葉を拾い食いしているのは普通だし、冬だけでなく、春夏秋でも、本来は食わないと思っていたアセビやシダを食っている。ナラシカは、シカの食性という点では全国に先駆けているかも。
春の若草山で、シダをボリボリ食っているシカ。シダは食べないなんて嘘だ。そもそもアセビやシダを本当に嫌っているのか?ようするに何でも食べるのよ。鹿せんべいはデンプンだし、多分、昆虫など動物性タンパク質も取っているんじゃないか。
奈良のシカは、個体サイズを抑えて、みんな小型化が進んでいる。餌が足りなくても、数は減らさず身体を小さくして必要な餌の量を少なくすることで生き延びているように感じる。果たして全国の森のシカはどうだろう。小型化も進んでいるかもしれない。
ちなみに研究は、兵庫県立大学自然・環境科学研究所、兵庫県立人と自然の博物館、国立環境研究所、森林総合研究所、京都大学の共同で行われたらしい。
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