「大江戸商い白書」に炭屋を見る
大ヒット中の漫画・アニメ『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎は、炭焼きが職業のようである。まあ、その後鬼退治の剣士になるそうだが……実はマンガを読んでいないしアニメも見ていないので、ストーリーはよくわからん。ただこのおかげで炭焼きという職業が注目されているらしい。舞台は大正時代だが……。
さて今回読んだのが、「大江戸商い白書 山室恭子著 講談社選書メチエ」。
舞台は江戸時代だが、江戸の町奉行所などの残している古文書を解析して、商店の分析を行っている。これがなかなか緻密で、よくまあ、ここまでと思うほど商店の数や内容がわかることに感嘆する。そして、それらの史料を数量分析を重ねて江戸の商売事情を浮き上がらせた労作だ。各町に何人住んでいたかまでわかるのだから、国勢調査なみ。
そして、意外な江戸の商い事情を描き出した。たとえば一つの商店が存続したのは、平均15,7年にすぎない。つまり潰れては新たに起業する、を繰り返していたのである。しかも株(商店経営の許可証みたいなもの)を孫子に相続することは珍しく、多くは譲渡。全然、2代目の若旦那、ぼんぼんなんか滅多にいなかったことになる。
そして。私が目を止めたのは、お店の業種だ。
ある年代では、41業種のうちイチバン多いのが「炭薪仲買」であった。それも全体の4分の1を占める。そして米屋が2番目でほぼ同じ。なんと約半分、つまり5割がお炭屋か米屋だったのである。
起業も炭屋か米屋がもっとも多い。どうやら新規に店を開きやすい業種だったらしい。なぜなら米も炭も、日々必要な食料と燃料であって絶対売れる。しかもかさばって重いから、遠くの店まで買いに行きにくい。各町になければ運ぶのに困る。そして商品は全部仕入れるにしても、品質はあまり問わない。どこの店で買っても同じものが手に入る……というわけだ。
ただし、同時にものすごく利益は少なくて、儲からない商売でもあった。だからすぐ潰れた。
こんな分析を見ていると、炭や薪の商売は、まったくもって厳しい。そこに納品している炭焼きの手取りはどうなるんだ、と心配になる。いや、もしかしたら、炭焼きの方が引く手あまただから儲けていたのかも? なにしろ江戸の町で燃料を自給することはできない。どんな貧乏長屋でも、自炊するにも暖を取るにも、お金を払って燃料(薪や炭)を購入していたはずだ。
大坂の場合は、薪炭は四国や九州から仕入れていた。おそらく江戸も、関東一円から東北当たりから薪炭を輸送していたのではないか。輸送には川を使ったか。となると大がかりな商いとなる。明治・大正時代になると、徐々に汽車やトラック輸送も始まっていたかもしれない。
とまあ、こんなことを考えながら、「鬼滅の刃」を読んだら面白い……わけないか(´Д`)。
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