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森と林業の本

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2020/11/23

日本学術会議による「獣害対策」提言

菅内閣発足後、いきなりケチをつけた日本学術会議の6委員任命拒否問題。

別に学術会議の提言に対して政府は従わなくてはならない道理はなく、今までも提言を無視することは山ほどあったはずなのに、あえて気に入らないメンバーを拒否したというのは、菅内閣の偏狭さ……はっきり言って度量の小ささ(ケツの穴の小ささとも言う)を示しただけで何の得にもならなかった。

そんな日本学術会議は、「人口縮小社会における野生動物管理のあり方」という提言も出していた。昨年の8月である。

ようは環境省自然環境局長からの審議依頼に応えたものだ。頻発する獣害に対して、いかにすべきかという科学的な提言。この時期に日本学術会議とはどんなことしてるの? と思った方は目を通してみたらよいかも。

結構な分量なので、私もていねいに読んだわけではないが、概要を読むだけでもだいたいわかる。そのサブタイトルを抜き出してみたが、正直、そんなに目新しいことはない。

(1) 統合管理のための省庁間施策連携と基礎自治体の専門組織力の強化
(2) 地域資源を持続利用するためのルールとしくみの必要
(3) 管理放棄地も含む包括的土地利用計画のための科学と基礎自治体並びに地域コミュニティの役割
(4) 科学的データの集積と運用のための市民に開かれた学術研究のしくみの構築
(5) 地域に根差した野生動物管理を推進する高度専門職人材の教育プログラムの創設

こういっては不遜だが、拙著『獣害列島』の執筆を通して私か学んだことことと大きな差はない。しっかり調査して実態を把握し、専門人材の育成、そして行政官の連携、集落などのコミュニティの対応……など。なおジビエなど資源化も含めて論じている。

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あえて私の感想を付け加えたら、結局は基礎自治体(市町村)や集落ぐるみの対応が大切というのだが……たしかに現場を知っているというか抱えているもっとも小さな自治組織こそ重要なのだが……もう無理じゃない?

山間集落はもちろん、市町村も一部の大規模自治体を除いて、ことごとく疲弊している。これ以上役割を増やしても、人口減の中でとても受け止めきれないだろう。その点は、林業政策を国から都道府県へ、県から市町村へと下ろしてきた結果と似ている。

たしかに林業も、山の現場に近い地域組織がもっとも詳しい。だからと権限まで下ろしても、その組織内で対応する人材がいないで右往左往するばかりだ。それは森林経営管理法の際も言われたこと。市町村に林業の専門職員を設けるのは難しいのと同じく、獣害の専門家をつくるのも難しいだろう。かといって天下り的に国などが専門家を派遣しても、地元に根付けるかどうか。

いっそ野生動物環境税でもつくって全国民から金を集めて獣害で困っている自治体に配れば、それで専門職員を雇用できるかも。

まあ、提言をどのように読むかは人によるだろう。各地の事情や対策方法など結構な情報量を含んでいるから、興味のある方は目を通すことをお勧めする。

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