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2020/11/28

「林業の専業化は不可能」論

また林政審議会の話だが、今月開かれた界では、「森林・林業基本計画」の改定がテーマだったようだ。

そこで林野庁側のたたき台として多角経営というか、副業との抱き合わせ例を紹介したようだ。資料にこんなページがあった。

Photo_20201128102601

そこにあるように副業の例として「露地ナス栽培やキウイフルーツ栽培~つまり農業」「タケノコやサカキ収穫」「土日はカフェ」「林政アドバイザー」「アウトドアガイド」「薪や木工品」といった複合経営の事例を紹介した。

すると出席した委員(自治体首長)は「林業と他の仕事を掛け持ちしても成功している人はわずかで、これで所得を上げるというのは邪道。本業がきちんとあることが大事」と発言したそうである。ようするに林業に専念しろ、と。

ああ、こういう発想が今も根強いのだな、と私はまた「絶望」したのである(笑)。

『絶望の林業』の「希望の林業」の章で触れたが、50年100年のスパンでサイクルが回る林業で、「林業専業」にこだわるのは馬鹿げている。もともと歴史的に林業を専業とする林家はほとんどいず、農林複合などが当たり前だった。戦前までの日本がそうだった。そして現在生き残っている林業家もほとんどがそうだろう。今風の6次産業化なんてのも基本は「林業だけじゃダメ」だから考えつかれたのである。そもそも百姓とは農業だけに専念する職業人ではなく100の職の集まりだった。その中には山仕事も含まれていた。
ところが木材景気に沸いた戦後の一時期に「より効率」を求めて分業⇒専業へと突っ走った。林業から農業、畜産……などを切り離した。結果はいずれの産業も衰退してしまった。

林業を専業化して成功しようと思ったら、広大な面積(たとえば1万ヘクタール以上)の山林を所有するか、あるいはアーボリカルチャーとか大径木伐採のような特殊技能を磨いて高付加価値の「オンリーワン」になるしかない。そして仕事を求めて全国を飛び回る覚悟がいる。狭い地域に特殊伐採や大径木伐採の需要はわずかしかないからである。もし自分は林業(の中の一部の作業)しかできないという人がいたら、それは雇われて……下請け化するしかないだろう。自分の意志で林業はできなくなる。

だが全員がそれをめざすのは非現実的だし、そんなにたくさんの技能者がいたら破綻するわけで、大多数はもっとしなやかに平均的な技術を身につけるだけで多様な職種を抱える方が理に適っている。林業家はジェネラリストであるべきだろう。加えて「ウィズコロナ」時代は副業の時代であり、一つの仕事に固執するのは絶滅へ向かいかねない。林業も、多くの職業の中の一つ、副業のアイテムだ。

しかも多様な職を展開することは、リスクマネージメントになる。一つの職が失敗した際に、生きていけなくなる。居酒屋だけやっていたら、コロナ自粛で経営危機になる例を目の前で見ているのだから。

また「林業」ではなく、「山村」の維持の点からも多様なライフスタイルと多角経営が行うことが人口減社会では重要となる。

専業指向は日本の悪しき意識ではないか。違う他者を排除するムラ社会から、多様な人材を受け入れる社会を築くためにもさまざまなスタイルが必要だろう。

 

※この論考、もう少し練りたい。

 

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コメント

あの大橋慶三郎さんですら、不動産があったから林業経営できているとおっしゃっているのに、、、。
専業とするならば、専業の枠を広げんと無理やと思います。
私はフリーの森林プランナーですが、たぶんそれだけでも食べて行こうと思えばできると思いますが、金にならん仕事ばっかりしてしまうので、お金になる多業種(土木系の災害復旧の調査依頼や点検業務、木材劣化診断など)の仕事と合わせて、地域林業に必要な事と自分のやりたい好きな仕事とを合わせてやっています。
そうじゃないと疲弊するし、20年後の地域森林管理のフィールドはずさんな状態になっているのが目に見えているので、、、。

この論考、まだ生煮えなどでもう少し深考しようと思っていますが、この議論に関しては、林野庁を応援したいですね。林政審議会の委員にマケルナ、と言いたい(笑)。

森林プランナーをフリーでしていますか。私も同じテーマの仕事ばかりしていると飽きるタイプなんで、余計な仕事もしてしまいますよ(^^;)。

コロナウイルス蔓延の影響を受け、訳の分からない理由で木材市場での原木単価が暴落した。素材生産一本槍の会社は苦しい経営状況になったが、保育作業や雑木伐採で皆凌いでいる。チェンソーや刈り払い機を用いる作業は森林整備だけではないのだ。家の裏の支障木伐採や竹林伐採。田や畑の畦草刈りや影伐りとニーズは山程ある。やってみると、高性能林業機械もあまり必要無いので経費が少なくて済む。地域との繋がりも深くなり、今後の集約化にも役に立つ。要するに、特化しなくても色々な作業が出来る会社が生き残る気がする。原木の相場が良くなれば、素材生産に戻れば良いのだ。変幻自在…変化できる者が生き残ると言うダーウィンは正しいのかな。色々する事も面白いし、スタッフの特性も活かせる。コロナ騒動で学んだ事も多い。

まさに、そうしたケースを考えていきたい。
林業技術(高度な特殊技術ではなく、一般的なベテランが身につけた技術)は、さまざまな応用分野があります。それらに日常的に活かしていけばよいのに、やろうとしていない。潜在的なニーズに営業を書けておくことが林業の多角化の一歩でしょう。
ダーウィンの例で言えば、変化は多様に起こり、そのうちのどれかが生き残る。多くは失敗し死に絶えるが、種としてはそれでいいわけです。林業家も、できるだけ多くの仕事を手がけていたら、そのうちの一つが引っかかって生き残れる、かも。

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