「池の水」抜くのは誰のため?~相互誤解のススメ
「池の水」抜くのは誰のため? ~暴走する生き物愛~ 小坪 遊著 新潮新書
拙著『獣害列島』の発行をほぼ同時期(拙著は10月10日、こちらは10月20日)に発行された、同じ動物問題を扱う新書。もっとも正確に言えば、動物というより植物も含めた「生態系」だろうか。
ちょっと目次を引用する。
はじめに――生き物ぐせの悪い人
第1章 「元気でね」放った先は深い闇
第2章 生き物ととるべきディスタンス
第3章 「池の水」は何回も抜こう
第4章 ダークサイドに堕ちた人たち
第5章 悪事を取り締まる難しさ
第6章 あれもダメ、これもダメを越えて
おわりに――私の愛も生き物を殺した
小見出しはたくさんあるので一部を紹介すると……
カブトムシで炎上した市議
コイを放してはダメな理由
シカが減らすチョウ、
「ジビエ拡大、官邸主導で」
ネコは激しく燃える
いい画(え)を撮るためなら…… 悪質鳥パパラッチ列伝
誰がブラックバスを放ったか 一部の悪質なバサーとの摩擦
「奄美」と「小笠原」は比べられない
……などなど。
だいたいの雰囲気はわかるだろうか。シカやイノシシ、クマが登場し、ジビエにネコの生態系破壊……と並ぶ内容は、拙著でも取り上げたテーマ。私的にはそんなに新しいことはなかった(というか、私も執筆に同じテーマのことを調べたのだから、重なっているのだ)が、ようするに善意だろうが悪意だろうが、生態系を狂わせることを人は多くしているということだ。そして生物多様性は危機に瀕している……その点は、野生動物が増えすぎ人間社会に害を及ぼしている問題にフォーカスした拙著とは切り口が正反対かもしれない。
私自身は、ここにあるような悪意の事例を目にすると頭に血が上るタイプなんで、読むのはちと辛かった。
ところで、私がこの本を読んで考えてしまったのは、実は内容よりも、執筆のスタンスというか心がけだった。
本文にもあるが、「あれもダメ、これもダメ」になると読者は、「生態系を守るなんて、なんと面倒くさいことか」と思って敬遠してしまう。気軽に動物と接する行為でも「ちゃんと勉強して動物を扱わなくては間違える」「助けたつもりが逆に自然を痛めつける」なんて言われるととやってられなくなる。「ええい、自然なんかとうでもなれ!」と思ってしまわなくもない(^^;)。
だからだろうか、本書は非常にかみ砕いて初心者向きに読みやすくしようと心がけたようだ。おかげで、あっと言う間に読み終えた。
全文「~です~ます」調で書かれているのもその工夫の一つだろう。私は対談などの話し言葉でないのに、ですます調というのは苦手なのだが……。
また一つの行為を取り上げる際に、こういう意図もあったのではないか、もしかしたらこんな可能性も……と全方向的?に語る。誤解を招かないようにていねいに記したのだろう。よく科学者は前提条件を重んじてこのような書き方をするが(この実験結果は、これこれこういう条件下で行われたから出たのであって、条件があれこれ変わるとまた別の結果が出て……といった書き方)、それと似ている。でも私は苦手である(^^;)。
いや、腐しているのではなく、わかりやすく書くことに、そして正確に伝えることに著者は腐心したのだな、と感じたのである。私とは、正反対かもしれない(⌒ー⌒)。
私自身は、「読者には完全に伝わらない」という前提に立つ。これはどんなにていねいに伝えても、(私の言い分を)すべて理解されることはない、と思いつつ書いているということだ。もちろん私の書き方(文章、構成)や読者の読解力・性格などに負うところもあるのだが、いかに頑張っても完璧に伝えられないし、読者を納得させられない……というのが私のスタンスなのだ。だから、正確性は二の次ヾ(- -;)オイ じゃなくて、ばっさり書きがち。例外・周辺事例は切り捨て、コアな部分に焦点を当てる。それが誤解を呼ぶことも多い。
これを「相互誤解」と呼ぶ(笑)。相互理解なんかは夢物語で、お互い誤解し続けるものという前提だ。その中で読者対象を見極め、最低限伝えたいコアを押さえること、その部分だけでも記憶に残す方法はないか、と考えてしまう。また「美しき誤解」もあるはずだ。お互いわかった気になる、伝わった気になる……そんなコミュニケーション。
思えば人間と動物の間のコミュニケーションも、相互誤解ではないか。その間で、ぎりぎりお互いの利得のために落としドコロを探りたい。生態系のことも、生物多様性のことも、人間の生活・気持ちも、そうした発想の上に立って自らがとるべき行動の選択をしていく。
イヌやネコの気持ちがわかった、こちらの気持ちをわかってくれた、と人は思いたがるが、本当のところはどうだろう。でも美しき誤解をしておきたい、とも思うのだ。むしろ誤解を美しくするために、最善を尽くした書き方を考えたい。(それが難しい。)
この記事も、誤解されて読まれる可能性大だな……。
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