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森と林業と田舎の本

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2020/12/16

国民森林会議の提言に「恒続林」

国民森林会議が、2020年度の提言を公表している。国民森林会議は、今風にたとえれば、日本学術会議の林業板みたいなものか。会長は藤森隆郎氏、提言委員長は泉英二氏となっている。

肝心の提言は、「持続可能な森林の管理(経営)」を論じた第1提言と、「法正林思想」や「恒続林思想」の現代的意義を論じた第2提言に分かれる。なかなか読みごたえある。大部なもので、とても全部は紹介できないが、たとえば第1提言。

日本も加盟しているモントリオールプロセスについて述べると、「持続可能であるか否か」を判断するためには、「生物多様性」、「生態系の生産力」、「社会・経済的便益」など 7 つの基準と、それらを具体的に示す複数の指標の動向によって総合的に判断していくものとしている。この仕組みはヨーロッパ起源の民間主導による「森林認証制度」の枠組みと共通性が高い。

後半では、人材育成を論じている。

ヨーロッパのフォオレスターのような優れたリーダーとなる技術者が、日本でも地域ごとに必要である。経験則や科学的根拠に基づいた森林施業の技術指導から、経営の指導、流通の調整、都市部と山村の交流への貢献など、現場に立って林業と一般社会を結ぶ重要な役割を果たす存在が必要である。そのような林業技術者のリーダーを育成し、活躍できるシステムを築けば、それぞれの地域の林業家の経営力、技術力のレベルは向上し、「持続可能な森林の管理(経営)」の必要条件は高められる。

さて、私が注目したのは第2提言だ。法正林思想と恒続林思想が登場するのである。

両者は名前は似ている?が、正反対の思想と言っていい。前者は数学的に森林の収穫物を扱っているのに対して、後者はある意味フリースタイル。そして法正林思想を歴史の中で否定されたとし、世界の林政は恒続林思想の流れに乗ったとしている。ところが政府は、いまだに前者を推進しているのである。

そういや、もう10年以上前になるが、たまたま林野庁の若手?ベテラン?と飲む機会があって、私が恒続林の話を話題に振ったが、まったく無反応(おそらく「恒続林」という言葉自体を知らなかったのだろう)だったのを思い出す。

ただ、難しい林業理論や林政はさておき、日本の林業の政策の変遷の歴史みたいなのが描かれているから、(私的には)面白かった。

ちょうど『森と日本人の1500年』(平凡社新書)を執筆の際に、この手の林政史の資料をひっくり返し、悪戦苦闘したことが記憶から蘇った。ただ、それをそのまま紹介しても一般向きではないからと、それこそ誤解を恐れず換骨奪胎? いやかみ砕いて説明し直し、いかに一般人に森林と林業の関わりが変遷していったか、林業思想の流れを示したのだが、それでも「難しいよ」と編集者に言われた……のだった(^^;)。

ここでは全体の趣旨を要約した形になっている「おわりに」を引用しておこう。

以上、本第 2 提言では、ここ 10 年来の林野庁の「短伐期皆伐方式」林業は、実は、本家のドイツにあっても既に 100 年以上前に批判にさらされた「法正林思想」に基づいていることを明らかにするとともに、ドイツにおいて、この「法正林思想」がどのような背景と経緯で登場し、どのような機能を果たしたかを明らかにした。次に、「法正林思想」に基づく人工林が、人間にとって都合のよい森林を画一的、機械的、演繹的に作り出そうとしたことに対して、「自然からの厳しい反撃」にあったことを明らかにした。そこで、ドイツでは、「恒続林思想」が登場して、「法正林思想」を全面的に否定したのであった。さらに、20 世紀半ばを過ぎる頃から、ドイツを中心とするヨーロッパでは、多機能林業論、多目的林業論、さらには近自然林業論などへと進化してきたことを明らかにした。
日本の林政は、「法正林思想」を背景に、「持続可能な森林経営」論さえも方便として駆使し、結果として、大量で安価な木材の安定供給だけを目的として、非持続的な荒く粗雑な施業を山元に強いているのである。

どうせなら、日本の動きを林野庁サイドだけでなく、地方の動きも取り入れてほしかったな。奈良県が恒続林を取り入れると宣言したことも含めて……(^^;)。宣伝足りなかったか。

ともあれ、ご一読あれ。

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コメント

お疲れ様です。その提言を読んでいますが、かなりのボリュームなので読み応えあります。
まだ途中ですが、専門過ぎる語句が多く、なかなか頭に入りません。名簿を見ますと、一度読むだけで「うん!なる程…そうなんだ」と、上手に伝えるプロばかりのはずですがね(笑)誰に対しての提言なのか…現場を知らない人達に理解できるのでしょうか。しかし、結構面白いですよ。

精読するのはきついっす。
ただ「誰に読ませるのか」という点は重要ですね。本来の政策に関わる政治家や官僚さえ、林業専門用語を理解できない可能性があるとしたら、提言の意味を成さない。(まじ、林野庁の役人に理解できる人は何人いるんだ、と思ってしまう。)

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