林業の獣害は止まらないことの証明
たまたま見つけた、農水省のサイトにあった平成30年度農作物鳥獣被害防止対策研修。
どうやら各地から鳥獣害に取り組んでいる行政マン(農水省、環境省、各地の県、市町村自治体)、それに民間会社も含めた研究発表会のようなもののようだが、その中で気に入ったのは「個体数管理の落とし穴」だ。山梨県総合農業研究センターの本田剛氏によるものだ。
その主題の一つは、近頃流行りのシャープシューティング(野生動物を餌付けして、人に馴らして集まるようにしてから仕留める狩猟の仕方)に対する批判というか疑義。最終的に殺すつもりでも、餌付けして人に馴れさせたら仕留めるまでにも農地に出て被害を出すでしょ。私も、人に馴らしてから殺すなんて、動物に対する尊厳が感じられないと思ってしまうが……。
むしろ注目したのは、「単純に個体数を半減すれば被害も半減すると考えるのは浅はか 個体数 ≠ 被害量」という言葉。
つまり駆除だけでは効果は期待薄、ということだ。同意する。とにかく捕獲、駆除数に頼って獣害を減らそうとするのは無理だ。かつて獣害対策会社に取材した際、「網や柵を張るのに力入れるより、どんどん駆除すればいいんだ」といった言葉を聞いて幻滅したことがある。一応、専門家がこんなことをいうのだから……。上記のように個体数を半減させても被害は半減どころかたいして減らない。やるなら絶滅に追い込むぐらいに駆除しまくるのならわかるが。
ただ私が考え込んだのは、「林業被害を減らすために、山奥でシカを殺す」ことは問題があるという点だ。
山奥での捕殺を続けるとどうなるかというと、シカを始めとする動物はむしろ里に出てくるようになる。というのだ。そして
• 農業被害増える.
• シカやイノシシの交通事故増える.
• サル,イノシシ,クマの人身事故増える
• 山奥での捕殺は,森林から出てこない「慎重な」個体を殺す
• これを続けると「大胆な」個体が増える.
というわけ。そして取るべき手段として上げるのは……
効率的な捕獲とは?
人を見ただけで山奥に逃げてしまう動物を作ること.
これを裏読みすると、シカなど加害獣は山奥に閉じ込める⇒林業被害は防げない。ということになる。里に出てくる個体を駆除することは農業被害を抑えることになるが、森から出てこない個体は残る。それらは林業被害をもたらす……ということにならないか。
それを防ぐ決定打はない。あえて言えば里に近づく個体をどんどん捕獲したり追い払うから人を恐れる個体が多くなるだろう。そこで林業地に常に人の気配を広げること、だろうか。
これは厳しいねえ。林業地(造林地だけでなく、皮剥を防ぐためには高樹齢林も含む)に人が常に入る状況をつくるのは無理だ。数か月、いや数年間も人が通わない林地だって珍しくないのに。人の臭いのするものをばらまく……というのも効果は長続きしない。
そして柵も滅多にメンテナンスしないから、どこかに穴が開いたり開けられて侵入される。
さて、どうする?
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