「けものが街にやってくる」を読んだ
『けものが街にやってくる』(羽澄俊裕著 地人書館発行)を読んだ。
このタイトル。まさに拙著『獣害列島』のテーマと被っている。私も、最終的には野生動物は街に進出してきて獣害は都市住民にも身近になるであろう、と考えているは記した。しかも、発売日が昨年10月10日と、まったく同じだ。
先に『「池の水」抜くのは誰のため』も近い時期に発行された拙著と似たテーマの本として紹介したが、こちらもズバリ真正面から来たなあ、という印象である。
しかも著者には記憶がある。「野生動物保護管理事務所」という会社を立ち上げツキノワグマの研究家として知られているのだ。実は、私も電話取材をした記憶があるので、数十年前に話したことになる。ま、向こうは覚えていないだろうが(^^;)。たしか野生のクマの生息数の推定法について聞いたはず。駆除数などから推定するから、駆除すればするほど生息数は増えることになる、結構いい加減……なんて意見を聞き出したように思う。
それはともかく、本書だ。目次を引用する。
Ⅰ部 すでに始まっている問題
人口減少問題の一般的な論点
野生動物の分布拡大と高まる災害リスク
分布拡大の理由
生態系に影響する問題
Ⅱ部 国土計画の盲点
人口減少時代の環境変化
コミュニティへの侵入を防ぐ
自然資本として森をマネジメントする
Ⅲ部 解決に向けて
機能不全の正体
現場の実行体制
人を育てる
まず拙著とテーマは非常に近いのに、アプローチが全然違うことに驚いた(笑)。目次の通り、まず人口減少問題から入っているのだ。それもかなり詳しく、人口減少のもたらす社会的影響に触れている。その上で動物たちの動向に触れている。ただ、ここは私的にはそんなに目新しく感じなかった。個々の事例は、さすがに研究者だから多くあるが、全体として拙著と変わらないのではないか。たとえば感染症、コロナ禍を獣害として扱っているところも拙著と同じだ。
原因に農林業の衰退などが挙げられているが、その林業の指摘に関してはちょっと突っこみたくなるところもあったけど(^^;)。
そのうえで、再び地域問題として対処法などともに人間側の問題点を指摘してくる。再びここで社会問題として強く記している。これは、仕事として獣害対策を請け負うことで国や自治体と交わった経験があるからだろう。
内容はいずれも的確だと思うが、今後の対策としては個人のレベルを超えているなあ、という印象を持った。財源問題や人材の育成……などなどとなると、一般人には手が出ない。これは無意識的に、自治体の行政マンや議員・首長向きに執筆したのではないか。
ともあれ獣害問題を考えるなら、人口減少社会からというスタンスは、私も取り入れたい。
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