「どんぐり運び」の危険性、証明された?
森林総研のサイトにアップされていた、こんな研究結果。
異なる地域のドングリを植えて生じる悪影響―ミズナラの種苗移動による成長低下と遺伝的交雑
(本研究成果は、2020年12月3日にForest Ecology and Management誌でオンライン公開されているらしい。)
これって、例の(笑)、熊森協会などがやっている「どんぐり運び」活動の問題点の一つとしている遺伝子攪乱問題に関する証明になるのだろうか。ここではミズナラの実を材料に、同種でも地域の違うドングリの遺伝子が持ち込まれると、森林環境に影響をもたらすことを示している。
北海道と岡山県のミズナラ植栽試験地で、地元由来の植栽木とよそ(他所)の地域に由来する植栽木の遺伝子型との成長を比較し、それらのどんぐりから生じた芽生えの遺伝子型を調べました。その結果、他所の地域に由来する植栽木の成長は地元のものとくらべて低いことがわかりました。また、芽生えの遺伝子型から異なる地域に由来する植栽木の間で交雑が生じていることも明らかになり、次世代以降の地域の遺伝的固有性に影響を及ぼすことが考えられました。
具体的な実験方法は、
全国19産地から収集したミズナラを植栽した北海道と岡山県の試験地(それぞれ北試験地、南試験地とする)において、植栽木の遺伝子型と成長を比較し、さらに試験地内のどんぐりから生じた芽生えの遺伝子型を調べました(北試験地:北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーション北管理部、2001年植栽。南試験地:鳥取大学農学部附属フィールドサイエンスセンター教育研究林「蒜山の森」、1982年植栽)
・他所の地域に由来する植栽木は、地元由来の植栽木よりも両試験地において成長(生育面積あたり幹断面積)が約40%低下しました。
・両試験地とも植栽木から落ちたどんぐりの芽生えは、親木である植栽木よりも地元と他所の中間的な由来比率の頻度が高く、その多くが地元と他所の地域に由来する植栽木の間の交雑の結果として生じたものと考えられました。
森林総研では、「広葉樹の種苗移動に関する遺伝的ガイドライン」があって、地元の種苗を植林に用いることを推奨しているようだ。
ちなみに私は、「どんぐり運び」に関しては、現実問題としてほとんど環境に影響ないだろう、と思っている。何百キロ運ぼうと、その地域で生産されるドングリの量と比べて些少だろうし、そのほとんどを虫に食べられてしまうと想像するからだ。さらに鳥、ネズミなどの小動物、そしてタヌキにイノシシに……と食べられる。少しぐらいはクマの口にも入るかもしれない。(クマのテリトリーを考えると、一つのドングリの山に1頭しかいないだろう。)いずれにしろ、芽吹くのはわずかで、芽吹いても次のドングリを稔らせるまで生き延びられるのはごくわずかだ。上記の研究のように生長が悪いのなら尚更だ。……しかし、こんな研究結果が出たか。
実験では地元種と交雑している結果が出ているだから、それなりに悪影響をもたらす可能性はあるわけだ。まあ、それほど意外感はなくて、そうだろうなあ、というレベルなのだが、ちゃんと証明したのだから(植栽から考えると、20年、40年もの時間をかけている)立派。
今後、「どんぐり運び」問題が持ち上がったら、この成果を世間にひけらかそう(^o^)。
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研究成果は知見として参考にさせていただきますが、データの解釈を意図をもって使うのが出てくるのと、自然の変遷に人間の時間感覚を持って判断しようという浅はかさが・・・
投稿: | 2021/01/15 09:17
ちゃんと原点の論文を読んだ上で判断ください。
無茶苦茶なデータを解釈して意図的に使うのが熊森だし。
どんぐり運びは常に条件が違います。
投稿: 田中淳夫 | 2021/01/18 00:11
熊森はブナとミズナラと九州のドングリは運んでないみたいですよ。
投稿: | 2021/01/19 17:05