漆芸に見た猫の生態
以前、本ブログでも紹介したような気がするのだが、生駒市には「緑ヶ丘美術館」(および別館)がある。
住宅地の中にポツンと存在して、洋風ながら一般民家を改造したかのような純民間の美術館。扱うのは映画ポスターやマンガまであって幅広いものの、基本は日本の伝統工芸の現代作家作品が多い。ほとんどが所蔵品らしいが、逸品ぞろいである。どんなけ溜め込んでいるんだ(^^;)と思わぬでもないが、これを完全無料で見せてくれるのだから有り難い。
今回は「日本の<漆>展-Ⅳ語り継ぐ蒔絵展」と、別館で「香炉香合展」。
さて、その中で私が目を引きつけられたのは、「乾漆螺鈿箱 眠い猫」と名付けられた作品だ。しんたにひとみの作品。人間国宝などの作品が並ぶ中で、まだ若い人のようだ。しかも奈良市在住だという。
ま、それはよいとして、作品は漆塗りに螺鈿細工をほどこした小箱だが、その上面と4つの側面に描かれているのがネコである。
鳥を追いかけるネコ、というモチーフで、このネコ眠っていないじゃないか、と突っ込むのは止めておこう。この前面の鳥を追いかける姿で、すでに不穏な様子(笑)。そこで、裏側の側面を見ると……。
鳥を捕まえて、食べておるがな……。やっぱりネコは凶暴で、野生動物の生態系を生きているのだった。アメリカの研究では、一匹の野良ネコは、年間数百羽の鳥や小動物を捕まえるというが、なかなかの環境インパクトであろう。
とはいえ、これはしんたにさんの考えたモチーフではなさそうだ。なぜなら、春日大社の宝物にある国宝の日本刀「金地螺鈿毛抜形太刀」にも似たネコがいるからだ。こちらにインスパイアされたのだろう。
この太刀は、平安時代の守り刀と思われ、刀剣乱舞ネコ、じゃないネタになったのかどうか。その鞘には金粉に漆、そして螺鈿で雀に襲いかかるネコが描かれている。この絵柄はサライの記事を見てほしい。
私が興味をもったのは、平安時代にすでにネコが渡来していて、貴族に飼われていたことを示している点だ。そして、そのネコは早くも鳥を襲っていたのだった。今なら「外来種は駆除しなければ」と言われるかもしれない(笑)。
なお別館の香炉香合展も見てきた。
こちらは主に陶器の香炉と、香料を入れる香合という小さな箱が展示されている。茶道具の一つであるが……。私は発見してしまったのだ。
これらの香合は木製だが……わかるかな?
これは黒柿による作品だ。銘木にして珍木でもある黒柿。柿の木の黒変種で、滅多に見つからないだけに、ときとしてすごい値段がつくが、肝心のその木を使った作品を目にする機会はあまりない。これらの香合は1辺10センチ未満だが、このように加工すると香合自体が数十万円にもなる。もちろん作家の価値であるのだが、素材も高いのだ。
以上、伝統工芸展で、注目したのはそこか! と突っこまれるのは覚悟しつつ、紹介しておきます(笑)。
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