不動産業が果たす価値~「ガイアの夜明け」から
昨夜BSテレ東で、ガイアの夜明け【ニッポンの山は“宝の山”!?】を見ることができた。前回の地上波放送時には『まだ「山林を買う」ブームか?』にも書いたように見損ねていたからである。
さて、いかなる感想を持ったか?……うん、よい番組だった。切り口も、紹介する事例もいい。山林売買を、土地の価値だけではなく、立木も算定して行う業者もいるのは嬉しい。これは林業の基本だが、せっかく山林売買ブームと言いつつも、それを行える業者は少ない。山林は土地だけではないのである。
そして送電線の通っている山を狙って買うとか、1円の土地や家屋を扱う業者とか、面白い事例を集めている。なかなかの趣向だ。
私が考えたのは、不動産業の価値である。まず山林の所有を負担に思う人がいて、一方でその山林に価値を見出す人がいる。その両者を繋ぐのが不動産業である。このような両者のマッチングこそ、不動産に限らず、すべてのビジネスの基本ではないか、と。
世間的には、不動産業、会社にしろ町の不動産屋にしろ、そんなによいイメージは持たれていないように思う。バブルの頃の地上げ屋のイメージも残るし、値段があってないような値付けでぼろ儲けしているんじゃないかという不信感。危ないプローカーの存在。土地にしろ建築物にしろ、権利関係が複雑なゆえ後々トラブルが発生することも多いからだろう。
しかし、持て余している荒れた山林でも、そこに何らかの使い道や価値を見出して、それを求める人を探し出す人脈とアイデアは不動産業ならではだ。チェンソー販売店に荒れた山をチェンソーの練習場にしませんか、なんて持ちかけるのはすごい。
人をつないで不動産を動かす。これこそ不動産業の醍醐味ではないか。山林だけでなく、たとえば町の空き家とかぼろ家でも、それをリノベーションしておしゃれなカフェを開きたいと思う人を見つけてマッチングすることができれば、店ができれば町の価値か上がり活性化になるわけだ。そして空き家に入る人や店を見つけてくるのは、不動産業の仕事なのである。決して行政のできることではない。
これは某地方都市の商業地にできた空き地の図。こんなに空き地があっては、空洞化が進み、とても活性化はできない。早く空き地を埋めて行かないと、町おこしは不可能だろう。ここにテナントを呼び込むのも、不動産業の仕事だ。
同じように荒れた山林も、商業地にできた空き地と同じだと考えればよい。そんな山でも探せば「魅力」「用途」はあるはずだ。そして、その「魅力」と「用途」を求める人もいるはず。それをマッチングの材料にする。
以前、話を聞いた林業家は、さかんに山林を購入していた。価格は二束三文だが、売り主は持て余しているからそれでよい。どうせ、自分の山にはロクな木がないと思っている。しかし購入後によくよく林内を探索してみると、必ず高価に売れる木々を発見するそうだ。それを伐採搬出すれば元が取れるのだとか。残りは利益が薄くてもかまわない……という発想であった。
林業の活性化とか、山村の振興を考えると、すぐ補助金目当てになる。あるいは行政が机上の空論を振り回すだけになる。本気で山を動かそうと思うのなら、見る目のある不動産屋を呼び込もう。そこまでが、行政の仕事だ。
ほかにも本気になってくれる金融機関だったら、異業種マッチングに力を発揮する。また税理士ならば相続なども含めて取り組める。いずれも「山林に興味を持っている」という条件付きだが、任せると何かが起きそう。本当に放棄山林が「宝の山」になるかもしれない。
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コメント
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その役割、地方の会計事務所でできないかと思っています。山を積極的に売る人はいなくても、相続で困っている方は多い一方、山を使って新しく事業を興す人がいれば、会計事務所の仕事になるので。
不動産業だと両手でも10%弱しか手数料が得られない上、宅地ではないので宅建士以外でも取引出来てしまうので、不動産の専業者にはあまり魅力が無いのではと思います。
投稿: 坂本直弥 | 2021/03/24 01:23
なるほど。会計士も人脈さえ持てば参入できますね。一方で山林取引は、無資格のブローカーが暗躍する世界ですから。
番組でも、取引価格が1円だと手数料を取りようがないので、利益をどう確保するか気になりました。一応、派生する仕事で儲けるといった曖昧な説明でしたが。売り主に着手金を10万円ぐらいは要求してもよいかと思います。
もっと大きな山林の場合なら、金融機関の出番だと思います。福利厚生やCSR、排出権取引を使うとか、山林の企業間取引も活発にすると面白くなる。
投稿: 田中淳夫 | 2021/03/24 09:10