獣害に「忠犬」を!
田畑を荒らすイノシシやシカなど追い払うロボットオオカミ「モンスターウルフ」で獣害対策が話題になっているが、私はその効果に疑問を持っている。
それより効果があるように思う“秘策”がある。
というと語弊を招くが、実は先に妻籠(南木曽町)を訪れたとき、山間部を走って目にしたのが「忠犬」の看板だった。
忠犬? 南木曽にも忠犬ハチ公みたいな伝説とかエピソードが伝わっているのか?と怪しんだが、なんでもイノシシやシカ、そしてサルなどを追い払うためのイヌの利用事業が進んでいるのであった。
これこそ我が意を得たり、なのである。なぜなら獣害対策には、私は何よりイヌが効果的ではないか、と思っていたからだ。ロボットではなく、生きたイヌが現れた野生動物に合わせて臨機応変の対応(吠える、追いかける、かみつく、人を呼ぶ……)をする方が効果的だと思うからである。機械による音や光では、動物側はすぐ慣れてしまうことは多くの事例が示している。そこで動物には動物を、なのである。
もちろん、人間も追い払いに頑張るべきなのだろうが、野生動物と向き合うと危険な側面もあるうえ、高齢者が増えている山間部では体力的に無理だろう。さらに夜も田畑を見回りするなど考えると、日々の暮らしへの影響が大きすぎて、とても連日できることではない。
そこでウシやウマ、ヤギ、ヒツジ……などの放牧も考えた。しかし、どこでも飼える動物ではないし、その動物の世話がまた大変になる。ヒツジなどでは、逆に襲われてしまう可能性だってある。
やはり、もっとも身近で、飼育に抵抗感もなく、何より効果的なのがイヌなのではあるまいか。イヌ自体が夜行性だし、畑を走り回って出没する動物を追うことは、イヌの本能にも合致する。追い払う能力や範囲などは、少しの訓練で身につくだろう。一部でオオカミを放て、とおバカな意見も出ているが、絶滅したオオカミを海外から持ち込む前に考えるべきは、オオカミと同じ種であるイヌだろう。(せいぜい亜種)
実際に、戦後すぐまではイヌの放し飼いが当たり前で、なかなか効果的だったという声もある。だいたい「忠犬ハチ公」のようなエピソードもイヌを放し飼いできた時代だから生まれたのだろう。
それができなくなったのは、1953年に狂犬病予防法が制定されたことが大きい。 狂犬病の恐れから放し飼い禁止が義務づけられたからだ。またノライヌの駆除も進められた。
しかし、今こそ中山間地のイヌの放し飼いを解禁すべきではないだろうか。リスクより益の方が大きいはずだ。だいたい、ネコは今も野放図な放し飼いを容認されているのに、イヌだけを取り締まるのはおかしいだろう。
……とまあ、そんなことを考えていたところに、目にした「忠犬事業」なのである。
イヌを訓練して、人に危害を与えないようにするのはもちろんだが、シカやイノシシを追うようにしつける。また行動圏を決めて、それ以上遠くには行かないように覚えさせればよい。たとえば柵で囲んだ田畑に放し飼いなら問題も起こりにくいはず。
私が子どもの頃飼っていたイヌも放し飼いをしていたが、町の一角の袋小路の路地から出て行こうとしなかった。たまに私が首輪にリードを付けて遠くに連れて行こうとすると(たいてい狂犬病予防接種などをうけさせるためだが)、必死に抵抗して出るのを嫌がった。自分のテリトリー意識は高いようだ。
「忠犬事業」は、イヌのシツケにかかる費用などを補助しつつ、集落単位で認知させるらしい。全国で20~30自治体ぐらいで実施しているようだが、もっと普及させる価値があるのではないか。サル追いに特化したモンキードッグもいるそうだが、そこは臨機応変でいい。
イヌの放し飼いが獣害の抑制にどさだけ役立ったか確認する必要もあるが、ゼロということはないはず。それに高齢化の進む集落でイヌを飼えば、人々の癒しや体力維持にもなるし、防犯やコミュニケーションにも役立つ。むしろ可愛がりすぎて、愛玩ペットになってしまうと、野生動物を追わなくなるかもしれないから、そちらの方が心配か。
南木曽町の「忠犬」というネーミングもステキだねえ(^o^)。横文字でなく、「忠犬」ですよ。
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オオカミを復活させるより現実的な取り組みだと思います。逆にオオカミがいなくなった今では、狂犬病媒介のリスクは下がっているはずですから(代わりにアライグマという地雷も埋まっていますが...)。これですべてが解決するとは思えませんが「1か0か」ではなく、「出来ることから」なら相当有用だと思うので、ぜひ広まってほしいです。
投稿: 0 | 2021/03/19 09:49
私が「オオカミ復活(というより導入・放逐)」案に批判的なのは、獣害対策としてはイヌでもよいからです。いやイヌの方が適切かと。絶滅したオオカミを海外から持ち込む理由かない。結局はオオカミ復活というロマンに酔っているだけにすぎない。
忠犬には、アライグマを含めて追い払う訓練をしてほしいですね。もちろん柵設置などの防護や、農業廃棄物放置などをなくすなど、総合的な努力が欠かせませんが。
投稿: 田中淳夫 | 2021/03/19 10:30