数を減らして分布を広げたシカとイノシシ
環境省が、シカとイノシシの生息数と分布の推定結果を出している。
全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定及び生息分布調査の結果について(令和2年度)
結果を簡単に紹介すると、2019年度末における本州以南のニホンジカの個体数は、中央値で約189万頭(90%信用区間:約142万~260万頭)、イノシシの個体数は、中央値で約80万頭(90%信用区間約58万~111万頭)。この数字だけを見ると、2014年度をピークに、ニホンジカ、イノシシともに、減少傾向が続いていることになる。
ちなみにニホンジカは、本州以南に限る。北海道のニホンジカ(エゾジカ)の個体数は、北海道が独自に調査を実施している(2019年度末で約67万頭と推定)が、計算結果のデータ形式が異なるため、別で取り扱うのだが、一般人的には気にしない(^^;)ので、日本列島にニホンジカはざっと250万~260万頭と思っておけばいい。
イノシシは全国とあるが、もともと北海道には生息しない。リュウキュウイノシシは数字に入っているようだ。そうそうヤクシカも入っている。
なお、推定方法は、19年度までの捕獲数等の情報をもとに、ハーベストベースドモデルを基本とした階層ベイズモデルと呼ばれる統計手法を用いる方法……とか。
ところが面白いのは分布だ。広がっている。1978年度から2018年年度までの40年間で、ニホンジカの分布域は約2.7倍に拡大、イノシシの分布域は約1.9倍に拡大しているのだ。また2014年度調査からもニホンジカ及びイノシシの分布域は、5年でそれぞれ約1.1倍に拡大しているという。どんどん生息域を増やしているのだ。
ニホンジカは、東北、北陸、中国の各地方で、イノシシについては、東北、関東、北陸の各地方で分布の拡大が見られた。
数が減っているのに分布は広げた……これをどのように説明するのだろうか。捕獲数を元に導き出す推定数というのも、捕獲数が増えたら数が増え、不猟だったら減るということになるから、信用度はどこまであるのか。
捕獲(環境省的な言い回しだが、ようするに駆除だ)を熱心すれはするほど、警戒したシカやイノシシは周辺に散っていくとも考えられるし、餌が減って新天地(この場合は人里)に進出しているのかもしれない。あるいは広がったため見落としが増えて数が減ったように見えるだけかもしれない。ただ確実なのは、分布域が広がれば頭数によらず獣害は増えるだろうということ。
ちなみに駆除で獣害(主に農作物被害)は抑えられないことは、さまざまな研究や実体験からも言われていることだ。生息数を半減させても、被害は半減しない。なお被害額は毎年漸減傾向にあるが、届け出があるものだけのカウントなので、農業を止めたら被害も受けないことになるから、イマイチ本当かどうか疑問だ。
それでも環境省と農林水産省2013年に「ニホンジカ、イノシシの個体数を10年後(令和5年度)までに半減」することを当面の目標と決めているのだが、これは獣害抑制手段を目的化してしまっていないか。
数を減らしたのに分布が増えた、という調査結果も、十分に内容を吟味しないと実態をつかめないだろう。
« 若草山の山焼きと山火事 | トップページ | 高みのタラの芽はどうする? »
「ナラシカ・動物・獣害」カテゴリの記事
- 野犬は野生? それとも……(2025.01.07)
- 害獣より家畜(2024.12.20)
- 科博「鳥展」の見どころは……マンガ?(2024.12.13)
- 国会で獣害問題の質疑(2024.12.06)
- 草食の肉食動物、肉食の草食動物……(2024.11.25)
行政のやる事が的外れになりがちのは、シカを半数まで減らす等の分かりやすい数字が無いと動けない(税金なので、根拠となる数字が必要)のが根本的な問題なのでしょうね。それならそれで、獣害防止柵の設置率なん%とかっていう目標を提示したら良いんじゃないかという気もするのですが。
そうすると今度は、自腹で設置した農家さんは怒るかもしれませんが…
投稿: 元ポンコツ伐採工 | 2021/03/06 06:58
そう、数字というわかりやすい指標に縛られていますね。それに駆除はある意味簡単です。柵の設置などは、地味でたゆまなくメンテナンスが必要になる。それを面倒と感じる農家も多いでしょう。
投稿: 田中淳夫 | 2021/03/07 04:00