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森と林業の本

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2021/05/16

「周辺と根幹」を考える論説

朝日新聞5月13日の「科学季評 環境問題は技術のせいか 根幹は人間の「文化」に」(山際寿一)を読んだ。有料だが、登録すれば5本まで無料で読める。

ちょっと昨日の「正義のミカタ」に関して私が考えたことの応用編みたいに感じたので、紹介する。

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この中頃の文章で、私が引っかかったのはここ。

戦後の復興で建材の需要が高まり、日本の各地で大規模な造林が進み、広葉樹林がスギやヒノキの針葉樹に置き換えられた。その計画は安価な外国材の導入により宙に浮き、針葉樹林は間伐などの手が入れられないまま放置された。それがシカやサルなど野生動物のすみかを奪って畑地や里に侵入させる結果を招き、花粉症の原因となり人々を困らせている。戦後の土建国家政策は、全国に道路網を敷き、河川に大小のダムを建設し、海岸にコンクリートの防波堤を張り巡らせた。その結果、川の流れがせき止められ、森に十分な水や栄養が行き渡らず、保水力が落ち土壌は崩れやすくなり、森里川海の循環が断ち切られた。それがかえって災害の規模を拡大させ、漁場の劣化にもつながった。

これ、どう思うか。安価な外国材……うんぬんのところはよくある言葉なのでスルーとして、針葉樹林(つまり人工林)を増やしたことが、野生動物が農地に出てくる原因か。あるいは花粉症の原因か。大小ダムを築いたことが森林に十分な水や栄養を行き渡らなくする原因になるだろうか。

山際さんと言えばゴリラ研究の第一人者で、私もよく本は読んだが、野生動物には詳しいはず。ただ日本の事情をどこまで把握しているか、だ。日本の森は有史以来、非常に豊かになっている。すみかを奪われたどころか生息域を拡大している。それにダムは下流域に影響をもたらすが、上流の森には関係ないだろう。

が、私はここで科学的にはどちらが正しいかを問うているのではない。私なりに疑問を持った点を記したものの、正直、枝葉末節である。どうでもいい。もしかしたら、もっと大きな視点で人工林やダムが物質循環に与える影響を指摘しているのかもしれない。

むしろ本質的なのは
どんな環境で暮らしていても、人々はより大きな幸福を求めて新しい生活を選ぶ権利を持っているからだ。ただ、その変容によって何が起こるかをあらかじめ予想し、対策を打っておくことが不可欠となる。」
「人工的な構造物で人々の生活圏を取り囲んだのは、ひとえに安全・安心で快適な暮らしを実現したいという人々の願いだった。それは文化の問題だ。」

などかと思っている。そして技術は「適用を間違えると悪影響が瞬くうちに地球をめぐり、思わぬ災禍を引き起こしてしまう。科学者はそのプロセスに敏感でなければならない。」という部分が根幹なのだろう。こちらは全面的に同意する。

昨今のマスコミの発言やSNSで炎上する案件というのは、こうした根幹よりも枝葉末節にかみつく人が多いから起きるように感じる。昨日のテレビで言えば、高橋洋一氏のコロナ禍を「さざ波」と言った発言もそう。

今回は、事例ということで、枝葉末節にいちゃもんつけてみたが、本来はやっちゃいけないことですよ(笑)。

そのうえで、さらにいちゃもんつけるヾ(- -;)と、科学者だって、すべてのプロセスに敏感になれないだろうし、いくら慎重に影響を予測しても想定外の反応だって起きるだろうなあ、ということである。

 

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コメント

私も新聞を読んで「枝葉末節」が気になりましたが、田中さんがおっしゃるとおり「根幹」が大切ですね。

枝葉末節は、ブログやSNSでひっそりと指摘しておくことにしましょう(笑)。

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