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森と林業の本

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2021/05/19

CO2排出46%削減への道・林野庁編

菅総理がいきなり宣言した、CO2の排出を13年度比46%削減(2030年度)。これまでは26%だったのだから異常な上方修正だ。

もっとも目標を掲げて、そこへ至る手段を考えるというのは悪くないと思っている。いわゆるバックキャスト思考になるのだろうが、未来の目標に向かって今やることを決める方が真剣味が増す。現状を見ながら、どこまで積み上げられますかねえ、なんてうだうだ言っていると進まないのは目に見えているのだ。
とはいえ「私は目標を決めた。後は任せた」式のリーダーシップほど怖いものはない(^^;)。官僚の皆さんは、泣きながら右往左往しているだろうなあ。

というわけで、林野庁も森林吸収量の目標を約3割引き上げることにしたらしい。政府はこれまで「26%減の目標に対して森林による吸収は2%分」としていたのを2.7%分まで引き上げる。森林吸収量をCO2換算で約1000万トン上積みし、約3800万トンとするというのだ。いやあ、思い切った数字だが……。

しかし、森林という生命体の吸収量を人間が勝手に上げるにはどうしたらいいのか。それを人工林を伐採して再造林することや、木材利用をより増やすことで確保するという。再造林は、現状の年3万ヘクタールから同7万ヘクタールまで拡大する。

この施策は、その大前提に「年数が経過した(50年~60年)人工林はCO2の吸収量が減少するから若木に植え替えた方がよい」という考え方がある。
これが嘘っぽい。なぜ、そうなるの? だいたいスギやヒノキの寿命は通常でも200年以上ある。50年60年ぐらい若い木で生長量(CO2吸収量に相当)が落ちるとは思えない。最低でも100年ぐらいまでは生長旺盛のはずだ。伐るなら300年以上の天然記念物級の大木だけにすべきだろう。

それに同じ面積に育つバイオマス量は、どんな森でも一定であるという法則からすれば、間伐はもちろん皆伐して植え直すことも、吸収にはならない。むしろ現時点で炭素を貯蔵している森を伐採したら、その後同じ量だけの炭素を蓄えるまで最低50年はかかることになり、その間はCO2超過だ。そして、その後も吸収量は増えない。単に元にもどるだけ。むしろCO2を排出してしまう。

いや伐った木を木材として長く使うことで保管すれば、その間は炭素を貯蔵していることになる、と反論が来そうだが、それなら国産材は最低でもバイオマス発電と製紙には回してはダメ。燃やせば瞬時に炭素は大気中にCO2として出て行くし、紙もほとんどが数年以内に破棄されるだから。この二つを除くと、国産材の用途の3分の1は消える。木材需要全体ならば、炭素貯蔵に回る分は半減してしまう。それに合板だって50年も使い続けるだろうか。国産材の合板用途割合は、2割ぐらいある。
肝心の建築材も、以前日本の家は29年で建て直すという統計もあるが、これと比べると60年伐期の半分以下ではないか。

再造林に植えるのも、生長が早くCO2の吸収能力が高い「エリートツリー」だというが、品種開発から苗木を供給できるようになるまで10年程度かかるよ……。ついでにいうと無花粉スギの苗木だって求められている。無花粉エリートツリーという難解な品種を作り出さないといけない。

ようするに人工林の伐採でCO2の吸収量を増やすというのは、ほとんど絵空事だ。

理論的にも、森林面積を増やす以外に森林がCO2を吸収して貯蔵する量は増えない。できることと言えば、現在の皆伐地のうち再造林しているのは2~3割というから、まずはここをしっかり押さえることだろう。ほとんど焼け石だろうけど。



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