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森と林業と田舎の本

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2021/05/20

『大麻の教科書』と工芸の危機

日本人のための大麻の教科書」(イースト・プレス刊 大麻博物館著)を読んだ。

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妙な本である(笑)。これまで大麻と言えば、マリファナなどの向精神薬の素材であり、その麻薬としての危険性を説くか、あるいは無害だと言いつつスピリチュアルな方向にハマってしまうか、いずれにしろ面倒な代物であった。……そもそも著者は大麻博物館というのが面白い。栃木県の一般社団法人の経営だとあるが、どんな博物館なのか興味がわく。

私が以前取材した田舎の移住者の一群の中に、大麻栽培を行った人物がいて、その後逮捕されたニュースを聞いている。もしかして私も、それを目にしていたのかもしれない。田舎暮らしをめざす若者の中には、そうした世界に走りがちなメンバーもいるのだった。

とはいえ、この本を読んで意外な誤解を知る。
たとえば約1万年前の遺跡から大麻の種子が出土していること。(だから帯文には「私たちは、米より先に大麻をつくっていた。」とある) 
また本来は麻(アサ科)のことを大麻と呼んでいたこと。ところがその後リネン(アマ科)、ラミー(イラクサ科)を麻と法律で定めたため、これまでの麻を示す言葉がなくなり大麻に落ち着いたらしい。もともと麻の尊敬語?が大麻だったというのだが。

なお日本の大麻に向精神性の成分は含まれていず、昔から繊維製品であった。かつて奈良時代の租税だった租・庸・調の調とは麻の布のことだったとか、神道の宗教的儀式に欠かせないものだったとか。横綱のまわしは大麻製だとか。また大麻模様というデザインもあって、「鬼滅の刃」の竈門禰豆子の来ている着物の模様がそうだとか。。。。

気になったのは、大麻から糸をつくる技術が忘れられ絶滅寸前だったこと。栽培から繊維の取り出し、糸をうみ(つなぎ)、布にする一連の技術を持った人は、たった一人だけになっていたのだそうだ。それを博物館で把握したことから、その一人(会津の女性)のところに10年間通って技術を習得したという。また講習会を開いて技術を広げた。肝心の大麻の糸をつくれる人がいなくなりかけたのだ。ちなみに大麻を織って布にするのも、いまだに機械化できずに手作業だけだ。

これこそ、日本の伝統工芸あるあるだ。表に出ている工芸品は評価されて、なんとか伝承しようとする人はいるが、その前段の素材を生み出す技術は人知れず消えていく。

たとえば漆芸も、漆を塗る職人はいる。わりとアートとして漆器づくりに取り組む人はいるのだ。ところがウルシノキを栽培する人も少なければ、幹を掻いて樹液の漆を採集する人は極めて少ない。さらに精製過程をできる人・企業もほとんどない。
和紙も、紙漉き職人はいるのに、コウゾやミツマタ、あるいはトロロアオイなどを栽培する人は消えつつある。栽培しても、そこから繊維を取り出す手間が大変で取り組む人は少ない。
陶芸では、土をこねて陶器を造りたがる陶芸家・職人は多いのに、陶土の生産には目を向けない。
日本刀の刀鍛冶は人気でも、たたら製鉄や、その前の砂鉄の採掘は忘れられてしまっている。

そして水口細工と呼ぶ葛織物も同じだ。一時期、完全に技術が途切れてしまった。素材の植物のどの部分からどうやって繊維を取り出すかもわからなくなった。編むための縦糸の植物名もわからない。だから復活までは大変な苦労があったのである。葛細工は伊勢神宮の遷宮にも必要とされるのに、危うく消えかけていた。それについては、こんな記事を書いている。
「幻の葛細工」が消えた意外な理由

日本人というのは(いや世界中で同じかもしれないが)、工芸の最終製品づくりはまだ興味を持って保存運動も起きるが、その前の素材の生産には力を注がない性質があるのではないか。

そういや、木工とか木造建築には興味を向ける人はまだまだ多いが、その手前の木材生産つまり林業とか、木取り技術は軽んじられやすくないか? 木工職人あるいは木彫りアーティストとか、建築家・インテリアデザイナーは憧れの対象だけど、森を育てる林業家とか、丸太の木目を読んで銘木を切り出す木取りの職人はどんどんいなくなっている。

大人気に見えるアニメーションもその一つに入るかもしれない。アニメを製作すると言えば、キャラクターを創造して、ストーリーと絵コンテなどを考えて……と思ってしまうが、現場で絵を描き塗る技術は忘れられがち。今に作業の全部がCGに置き換わって自分で絵を描かなくなるかもしれない。


ちょっと脱線したが、大麻もよく似た状況に加えて、麻薬のイメージが色濃くて、栽培や研究も法律でがんじがらめの免許制のため簡単に生産できなくなっている。だから輸入品が増えている。

本書は、過剰に大麻に肩入れすることなく、淡々と歴史や現状を描いている。ここで大麻解禁の是非を論じる前に、基礎知識を知っておいても損はないだろう。

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コメント

最近の若い人で林業やら田舎暮らしを志す人には、素材生産から最終消費までの流れとか、他産業との繋がりを意識している人が多い気もします。
いよいよ業界の問題点が露呈してきて意識せざるを得ないだけで、いい傾向とも言えないのかもしれませんが。

えーと、大麻から、そこまで連想していただけたのなら幸いです(^^;)。
産業が活性化すると分業体制が築かれるのですが、それが分断を生み、フレキシブルな生産ができなくなり、時代後れになれがちでやがて衰退していきます。すると、全体を見ることのできる小さな単位を求めるようになる……この繰り返しかもしれませんね。

今頃のコメントお許しください。
これ↓ご存知でしょうか。
https://www.youtube.com/watch?v=pJEbqFez7dk
麻やウルシが縄文時代からのものだとはこの本↓で知りました。
https://www.shinsensha.com/books/254/
「こんなに昔の人なのに植物について詳しかったんだ!」ではなく、現代人よりよほど植物に精通して上手に利用している、という文章に、ご尤も。

この本は知りませんでしたが、縄文人の麻や漆利用は、これまでも指摘されていました。縄文時代は狩猟採集生活ではなく、定住して一部の植物は栽培もしていたようですね。
案外、みんな大麻を常用していたりしてv(^0^)。

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