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森と林業と動物の本

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2021/06/26

『森林で日本は蘇る』を読む

『森林で日本は蘇る 林業の瓦解を食い止めよ』(白井裕子著 新潮新書)を読んだ。

覚えている方もいるだろうが、著者は以前『森林の崩壊』を書いた人だ。工学博士で一級建築士。だから木造建築の分野から森林問題に入ってきたと言えるだろう。

この際だから書くが、前著はあまり評価していなかった。森林や林業をちょっと学んだかな、という印象で、林野庁など政府の言い分をそのまま信じているかのような箇所もある。そして最後は伝統木造建築礼賛になっていたからだ。伝統構法を建てさせない法律には問題あるが、基本林業にはたいして関係ない。

 

それでも今回、出版直後に読んだわけだが……書いていることは大きく変わらないのだが、印象はかなり違う。

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その前に目次を示しておこう。

はじめに

第1章 日本の建築基準法には自国の伝統木造は存在しない
木の長所と魅力を活かした伝統的な構法がないがしろにされている。大工棟梁の技能も伝統構法も世界に誇れるものなのに……。
第2章 自国の伝統文化は国益に直結する
景観や建築を自国の財産としてきたフランス。思想も哲学もない日本の建築基準法は一体どこを目指しているのか。
第3章 山麓の小さな製材所が持つ大きな可能性
木材の良さを生かせない制度、政策が価値を下げている。闇雲な大規模化を目指す前に足元にある知恵を見直すことがチャンスを生む。
第4章 誰のためのバイオマス発電か
あまりに違う欧州の真似をしても資源も産業も疲弊する。バイオマスは、エネルギーを使う現場から考える。
第5章 美しい山林から貴重な銘木が採れる列島なのに……
かつて銘木には1本3000万円以上で取引されたものもあった。いまでも価値ある木は存在しているはずなのだが……
第6章 森林資源の豊かさと多様性を生かせない政策
諸外国が羨むほどの森林資源を活用できないのはなぜか。豊かな資源で海外へ、将来へ打ち出す戦略を。
第7章 山中で価値ある木々が出番を待っている
日本の木の素晴らしさを日本人はどれだけ知っているのだろう。この価値を高める製材業と林業の復活を。
第8章 林業機械から分かること
欧州の林業技術展の面白さはどこからくるのか。日本は何よりもまず死傷事故を減らすこと。
第9章 いつの間にか国民から徴収される新税
補助金で縛るほど、林業は廃れる。本質的な改革と成長は、おのれの意欲と意志で動き出すことから。
おわりに
謝辞

初っぱながまたもや伝統建築の話なんだが、今度はいかに建築基準法などの規制が伝統建築をを邪魔しているかという展開だ。私自身は伝統建築にさして思い入れはない(そもそも住みたいと思わない)ので、さらりと流した。

その後は、正直、一読して既視感。いや既読感。何がって、まるで拙著『絶望の林業』を読んでいるかのようだから(笑)。

徹底的に現在の林業事情を批判し続けている。補助金もバイオマス発電も林業機械も……よくぞ、書いてくれた(^o^)。私も書き切れなかったり、削った部分も含めて追求している。系統だってはいないが、私以外にここまで林業批判をしているのを目にすることはまずない。

『絶望の林業』との違いはというと、彼女は日本学術振興会の研究員などをやっていた関係で、政府の官僚ともつきあいがあるらしいこと。ワーキンググループなどにも入っていた。そのため内部情報というか、現場の官僚の発言なども紹介されている。

たとえば、ちょっと驚いたのは森林環境税のことだ。私はこの税を批判していた。これは増税だぜ、しかもバラマキだぜ、と言いたかったのだが、報道としては孤立無援というか、賛同者はほぼ現れなかった。ところが内閣府のワーキンググループでは批判続出だったらしい。成長産業にするといいつつ林業を公的管理下に置くための新たな税を取り、補助金的にばらまくとは何事か、というわけである。だが、見事に無視されたとある。内部の審議会の意見でも無視して突っ走るのだから極めて政治的なバラマキだ。識者の意見も形骸化。ガバナンスも疑うレベルではないか。外野の私の声などまったく響かないはずだ。

林業の補助金に関しても、他省庁から不満や批判の声が出ていたそうだし、そもそも補助金が林業関係者のやる気と思考力を削いでいることに官僚と気づいているかのよう。そして白書には、成功例しか載せない(成功したことにする)ことも。

どうせなら『絶望の林業』と抱き合わせて読むと面白いよ(笑)。

ただ異議はある。一番の問題は、タイトルだろう。「森林で日本が蘇る」点なんぞ、どこにも触れていない(-_-;)。あえて言えば、銘木の話。こんなに高く売れることもあるんだから……という点だろう。そりゃそうなんだが、昔の銘木は今は売れないのよ。今の銘木とは何か、がテーマになるのだ。

山村の小さな製材所だって、経営が維持できないから潰れるのであって、潰すなというのは経済原理に反する。まさか補助金で支えろというわけでもあるまい。潰れる理由は、経営者の能力の問題もある。全体に経済的視点が欠けているのだ。

 

とはいえ、『絶望の林業』を読んでも、まだ林業への愚痴が止まらない人は、読む価値はある\(^o^)/。読んで愚痴を言い続けようぜ。この本が売れたら、今後、林業・林政を批判する本が続出するかもしれない。(後に続け~!)

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