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森と林業の本

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2021/06/18

「ウッドショック」のリスクヘッジ

いまだに、というか、世間では今が盛りなのか、ウッドショックの話題が絶えない。マスコミの記事がどんどん増える。

もしかして、これまで木材とか林業にまったく興味のない・知識もない連中が、「なんだか今はウッドショックと呼ぶ現象が起きているらしい。ネタになるぞ」という先駆的?記事を目にして、自分も参入せねば、と焦って取り上げている気がしないでもない。ネットの中だけでも経済ネタ、国内ネタ、貿易ネタ、いろいろ切り口が増えていく(^o^)。

それはどうでもいいのだが、そもそも「ショック」というのは木材価格の高騰および木材不足のことだ。しかし、この現象は歴史的に見れば珍しいことではない。数十年に一度は木材は高騰するのが当たり前で、バブル景気とバブル崩壊の繰り返しみたいなもの。上手く立ち回ったものが大儲けするのは歴史が証明している。もちろん、大損して破綻する人も多く出る。

ちなみに、私は明治時代の山林王・土倉庄三郎のことを調べる過程で江戸時代から明治、大正時代当たりまでの木材価格の値動きを調べたことがあるのだが、その時にも木材の乱高下は珍しくなかった。日本国内にかぎるが、高騰、暴落がしょっちゅう起きていた。明治維新後には木材需要が爆発的に増えたが、その後だぶついて緊縮財政になったりと繰り返している。明治末にも材価は低迷したが、大正には爆上がりしている。逆に言えば、それにいかに乗るかが林業家の腕の見せ所というわけだ。庄三郎は、その点も長けていたようである。

庄三郎が、大阪の北浜に陣取って、木材バイヤーのカルテルに対抗した話も残る。価格を下げさせようとする業者と張り合って、安値では売らずに木材価格を下げさせなかったそうだ。それに耐えられる資金力もあった。

そして戦後は、「吉野ダラー」という言葉もあるように、木材で儲けた人々(主に吉野)が株式相場に乱入することもあって、これまた乱高下を経験している。木材価格自体も、戦後は一貫して上がっているかと思いきや、意外と下落も何回となく起きていた。投機で遊んだのは困ったものだが、それだけ博打感覚を持っていたとも言えよう。

あの経験・感覚を現在まで持続していたら、今回のウッドショックも上手く立ち回われたかもしれない。

なぜ、現在の林業・木材関係者があの頃と同じことをできないのか。

一言で言えば、余裕がない、資金もない、知恵もない、ということだろう。

ただ、株式相場と同じように考えれば、こうした高騰とか暴落に備える技はある。いわゆるリスクヘッジだ。株の世界には、常にリスクヘッジが必要とされている。

まずは、ポートフォリオだ。分散投資である。なるべくハイリスクハイリターンの株と、真逆の安定株を組み合わせて売買する。外貨建てなんてのもある。国産材を外貨で取引したらどうだろう? そのほかに相対取引も、価格の変動を抑えるためのもの。年間の予約・先払い購入もありえる。

本命のリスクヘッジは、先物取引である。先物は江戸時代の大坂の米相場から誕生したと言われるが、米の価格の乱高下に備えるものだった。それがなんだか今は先物というだけで、投機筋の泡銭稼ぎのように思われてしまうが、本来は相場の安定のための仕組みである。

ここで先物の仕組みについて解説するつもりはないが、木材も先物で半年、1年先の価格を決めて売買しておけば、ウッドショックなんか怖くなかったのに。ぼろ儲けのチャンスを逃したと嘆くかもしれないが。林業家も、先物に合わせて大量生産しておく先読みが必要だが、その資金調達も証券市場で行えばよい。いっそ木材先物市場を創設したらどうか。

だいたい、アメリカでウッドショック(木材価格の高騰)が起きたことは昨秋あたりからわかっていた。木材を扱う商社などは把握していたようだ。ところが、その情報は日本の林業界には伝わらなかった、あるいは伝えても無視された。つまり、突然起きたことではないのである。ちゃんと備える仕組みと情報発信を行っていれば、恐れるに足らずだ。

結局は、木材の川上(山側)と川中(製材)・川下(建築)の流通で情報をしっかりやり取りしておくのが、最大のリスクヘッジである。それができていないのだから、話にならない。

Dsc00295 製材品市場の競り

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コメント

元木の値段は相変わらずですが、2番3番の材の値段が上がって、昨年最安値の価格の2倍になりました。すこし、やる気が出てきたかな。
しかし、大阪府の森林計画では毎年3万㎥の木材を生産することになっていますが、現実は、昨年、大阪府森林組合木材総合センターに出荷された材積は3千㎥でした。奈良県や京都府の市場に出荷された木材もあるので、それを含めても目標を達成するには、生産量を4倍から5倍にしなければなりません。それには生産体制が貧弱です。ウッドショックがなくても森林環境贈与税が創設されたので、生産体制の強化については意識されていましたが、林業事業体(例えば森林組合)が生産能力を上げるには、山や市場で人を雇用し、機械を購入し、市場の面積を広げる必要があります。この資金を林業事業体がリスクを取って投資するのは、過去40年間木材価格は下がり続けてきたので、今の段階では勇気のいることだと思います。(価格が上下に変動しているならリスクヘッジも可能でしょうが。)さらなる木材価格の高騰か、国産材を安定的に供給するための仕組みづくりへの行政の後押しがないと無理だと思います。

元玉ではなく2番3番玉が値上がりしているのですか。面白い傾向ですね。

しかし3万立米の生産計画が無茶なような(^^;)。無理に生産拡大をせず、むしろ出荷調整をして材価を高いまま持続させるような手はないですかねえ。

大阪府の森林面積は27000haなので、年間成長量を5㎥/haとすると13万㎥、3㎥/haとすると8万㎥、控えめに1㎥/haとすると3万㎥という計算でしょうか。 全国で精一杯生産すると木材輸出国にならないと価格が維持できません。

面積からの逆算ですか。でも、需要と生産能力を考えない計画生産量は、まったく経済の論理に反していますね。

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