林業事故をなくす究極の方法
林野庁は、もうすぐ公表するはずの「森林・林業基本計画に死傷年千人率を、今後10年をめどに半減」という目標を書き込むようだ。ようやくというか、林野庁は林業死傷事故削減を掲げるようになった。とりあえず「半減」ですか。10年かけて……。
ちなみに2019年の死傷年千人率は、全産業平均が2.2人、林業は20.8人。10倍近い。やっぱり異常だ。とはいっても、つい最近15倍だったこともある。
なにしろ全従事者数が少ないから、事故が少し増えた減ったで、大きく率は揺れ動くのだ。ただ主要産業の中で最も高い状態なのは間違いない。この点は揺れ動かない。永遠の1位?
事故は、何といっても、木の伐採作業中に発生することが多い。技術がない新人だけでなく、ベテランも多い。加齢による身体機能の低下のため……と言いたいところだが、ちょっと怪しい。技術というより安全に対する意識の問題のように思う。単にこれまでいい加減でも運がよくて生き延びられただけではないか。むしろ林業大学校などで基本的な安全管理を教わった新人の方がマシなんじゃないかな。
方策は、都道府県ごとの事故の発生原因を分析し、作業安全のための個別規範やチェックシートをつくるそうだ。チェーンソーの操作訓練とか、防護ブーツなど安全装備の導入……すでに行っているべき項目じゃない?
私が林業の危険性を感じたのは、関わって何年もしてからだ。最初の頃、林業体験を積もう、平気で刃物を扱っていた。とくにチェンソーを手に入れたときは、嬉しくて周りの木を伐って回った(笑)。今思えば、かなり危険なこともしている。かかり木の処理で根元から刻んだり、かかった木の方を伐り倒したり。ソーが挟まって大騒ぎしたり。
慎重になってきたのは、チェンソーの扱い方講習などを受けたこともあるが、やはり事故を耳にすることが増えたこと。
それまで直径30センチ級の木でも平気で伐っていたが、20センチを超える木を伐るのは止めた。さらに15センチ以下にし、10センチ以下にした(^^;)。さらに進めてチェンソーは使わなくなった\(^o^)/。手ノコとナタで伐る。伐れないものは諦める。これぞ、究極の安全対策だ。
趣味の森仕事&チェンソー遣いだったから使用を止められたのだが、仕事の場合はそうもいかないだろう。では、どんな研修を受けるべきか。
私の場合、もっとも効いたのは、アメリカ人フォレスターの講習会に参加したことだ。
そこでは、ひたすら映像を見せられた。写真も動画も。それも本物の事故ばかり。死人も見せられたよ。顔をずっぱりチェンソーで伐ってしまった人もいたな。樹上で幹をカットして、吹っ飛ばされる人とか。よく、そんな映像が残っているな、とも思うほど多彩な事故動画だ。今ではユーチューブを漁れば同じようなものが見られるかもしれないが、とにかくショックであった。
教育には、この手の実際の事故を見せるのが一番だと思う。日本の研修では、そこまでやらないだろうか。大木の下敷きになっている死体とか、チェンソーでばっさり伐られた傷口とか。それらを見たら、ようやく本気で安全について考え出す。
労働災害を疑似体感できる「VR(仮想現実)体験シミュレーター」もあるそうだから、みんな、これで自分の足を切り落としてしまって、血しぶき浴びる経験をしたらいいんじゃないかな。それで、みんなチェンソーを手放したら……どうしよう(^_^) 。
究極の事故防止法は、林業を辞めることかなあ。
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陰謀論がすぎるかもしれませんが、日本でそこまでの映像は見せたくても見せられないんだと思います。ただでさえ少ない若手就業者希望者に恐ろしい自己映像を見せれば寄り付かなくなるという考えがあるから…
投稿: 0 | 2021/06/08 08:23
自分が見たくないものは見せない、で、見たくない事故が起きても見なかったことにする……林業のバラ色の未来を見せるのは好きですからねえ。
投稿: 田中淳夫 | 2021/06/09 10:39