『地球を滅ぼす炭酸飲料』の描く世界
『地球を滅ぼす炭酸飲料~データが語る人類と地球の未来」(ホープ・ヤーレン著 築地書館刊)。
本書のタイトルはちょっとミスリード。むしろサブタイトルが本筋だろう。英語版は2020年3月の発行だから、すぐに日本語版発行へと進んだようだ。ちなみに原題は『The Story of More』。これ、直訳はなんとすればいいだろう。とくにMoreが……? 「詳しい物語」?「より多くの物語」? いっそ「もっと、もっとの物語」(笑)。「もっともっとちょうだい」と言う人類の欲望の物語。
内容の前に著者を紹介する。ホープ・ヤーレンは地球生物学の科学者で、2016年にタイム誌から「世界で最も影響力のある100人」の一人に選ばれた。ハワイ大学に終身在職権のある教授だったが、2018年にオスロ大学に移った。どうやらトランプ(前)大統領の影響もあるらしい。ノルウェー科学文学アカデミーのメンバーでもある。
・[目次]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日本語版に寄せて
第Ⅰ部 生命
第1章 著者、気候変動に取り組む
第2章 増え続ける人口
第3章 延びた寿命
第4章 都会を目指す
第Ⅱ部 食物
第5章 穀物の過剰生産
第6章 太りすぎた家畜
第7章 過保護な魚たち
第8章 炭酸飲料は砂糖がいっぱい
第9章 作っては捨てる
第Ⅲ部 エネルギー
第10章 エネルギー使用量の急増
第11章 頻繁な移動
第12章 植物は燃料不足解消の救世主か
第13章 タービンは回る
第Ⅳ部 地球
第14章 変化した空気
第15章 気候温暖化
第16章 解けていく氷
第17章 水位の上昇
第18章 大いなる別れ
第19章 もうひとつの道
付録 無駄を減らす
1 あなたがとるべき行動
2 変化はあなた自身から
3 環境問題の現状
4 情報源ならびに推奨文献
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データを駆使して地球環境問題を語っている。基本的に気候変動やエネルギー問題、食料問題などがテーマだ。
タイトルの炭酸飲料も、問題としているのは、そこに含まれる砂糖と異性化糖(ブドウ糖果糖)だ。と言っても、日本人がすぐに飛びつく「合成甘味料は健康に悪い」レベルではない。そんな「思いつき批判」には目もくれず、ブドウ糖果糖の原料となるコーンの出自を追求する。コーン栽培に使われる莫大なエネルギーと水。実はアメリカで生産されるコーンの何割かがこの砂糖もどきに化けている。そして、多くが捨てられている。全世界でコーンとして食べられるのは、アメリカの生産量の10%にすぎない。
ほかに私が注目したのは、人口が増えたことよりも、消費するエネルギーや食物の増加の問題だ。人口は2倍になって、エネルギー消費は3倍になったのである。食料も、実は人口以上の生産が行われて余っている。穀物の半分は家畜の餌に回り、さらにバイオ燃料や異性化糖に使われていいる。畜産も、よりガタイの大きなウシ、ブタ、ニワトリが開発され、成長も早く肉と乳を生産するようになった。
にもかかわらず8億人が飢えている。単に人口が増えたから飢えている、のではないのだ。
そのほか複雑な気候変動の実態と再生可能エネルギーの欺瞞も淡々と指摘する。
森林に関する点は少ないが、二酸化炭素の吸収源と認められていることに触れている。だが、いわゆるカーボンニュートラルが成立すまには何十年もかかるため、目先の削減には結びつかない。逆に目先は大気中に二酸化炭素を増やしてしまう……。
さて、カーボンニュートラルの欺瞞は、私も指摘してきたことである。とくに森林が二酸化炭素を吸収源となって地球温暖化を助けてくれるという発想に。世間の思う環境問題と、現実はズレているのだ。
実は、現在執筆中の本の原稿でも、この問題に触れる予定である。森の機能を一般常識とは違う異論からの視点で語ろうと思う。森が地球温暖化を進め、森が山を崩す。植林が自然を壊す。花粉症は自然の摂理。
タイトルは本書にちなんで『The Lie of More Foresty!』とでもするか。日本語版は(日本語版しかないけど)『地球を滅ぼす「木を植えろ!」』なんてどうかしら。プライドがない。。。
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