混交林は木材生産性が高い?
「気候変動」と並んで「生物多様性」は、地球的課題として大きく取り上げられる。残念ながら日本では後者はあまり関心を持たれないようだが。実は両者は親和性があり、気候変動を抑えるには生物多様性を保全することが効果的だという。
ただ、生物多様性は経済的にはあんまり歓迎されないようだ。これを林業で言えば、さまざまな樹種が混在(加えて異齢)している森となるが、木材生産がやりにくくなる。同じ樹種の木材を大量に収穫できないからだ。それに皆伐などができずに作業効率も落ちる。スケールメリットがなくなり経済性を劣るように感じてしまう。
だから混交林や異齢林を嫌がり、スギ一色、ヒノキ一色の人工林をつくりたがるのだろう。
ところが、こんな研究が出ている。[Fores-Try]
南ドイツを中心としたヨーロッパの単純林と混交林を比較した研究では,その最大本数密度が混交林で高くなることが示されました。
立地環境と樹木の平均サイズが同様である単純林と比較して,なんと混交林では平均16.5%も高い最大本数密度を示すことが分かりました。
どうやら混交林には樹木間の競争を緩和したり、成長を高め合ったりする相乗効果があるらしい。それは「すみわけ」とか「助け合い」があるからだという。つまり、混交林の方が、木材生産力が高いことになる。
同じ面積で16%以上も木材生産が増えるというのは魅力的ではないか? まだ作業効率の点は残るが、だいたい皆伐を前提にするのが間違っているように思う。
また植物の多様性は、農業生態系における殺菌剤耐性の進化的発達を改善する効果もあるらしい。ようするに、恐ろしい病害虫が出てきづらくする可能性がある、と考えていいのかな?
たしかにスイスで見た林業地は、日本人には雑木林にしか見えなかった(笑)。だが、ちゃんと木材生産しているらしい。
実は、日本でも戦前は一斉林はそんなに多くなかった。一斉林にするには密植しなければならない。一方で疎植にすると、間に必ず広葉樹などが入ってきて混交しだすからだ。また密植で有名な吉野では、スギとヒノキを混ぜて植えていた。生長速度が違うので、こまめな管理が必要だろうが、吉野はそれを苦としなかったのだろう。生産力を増す方が得だと見切っていたのかもしれない。
だいたい皆伐だって、そんなに大きな単位ではしなかった。1町歩単位なら、モザイク林になるから異齢林に近い。
それを戦後は全部ぶち壊してしまった……と思うと戦後の林政の大失敗の根源は混交林を止めたことにあるのかも。
« 東京にて考えた | トップページ | こんなところに天然杉苗 »
「林業・林産業」カテゴリの記事
- 見えないカルテルが、木材価格を下げる(2025.01.13)
- 理想の林業~台湾の公有林がFSC取得(2024.12.27)
- 林野庁の考える「再造林」(2024.12.18)
- 「林業と建築の勉強会 」から学ぶ(2024.11.23)
- 高知の立木市場と密植への挑戦(2024.11.19)
コメント